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- 15章 -
-謝罪と始まり-
しおりを挟む「…意外と未練がましいんだな」
「そうなんですよー」
なんでもないようにさらりと答えて、困ったように笑った。
確かに、今班乃が言った事に嘘はない。
でも全てではない。
今に至るまでの班乃の経緯をしれば、決して未練がましいなんてことは言えない。
「なんだ。 じゃぁ、本当に投げちゃってもそれはそれで良かったんじゃん」
「そんな事ないです。いつまでも持っていてもと思ってはいましたけど…でもこうして手元に戻ってきて、本当に、本当に嬉しいです」
「そう?」
「それに、やっぱりこういうのは自分でけじめつけないといけないですしね」
「明って意外と頑固って言われない?」
「そんな事は…ないと思いますけど」
大きな問題が解決した後のような、ある種の和やかなムードでの会話を、安積は唖然と聞いているしか出来なかった。
「安積? どうしたんですか?」
「えっ!? あ、ううん。大丈夫」
そんな様子に気がついた班乃が声をかけた所で、ぼっとしていた事に気がついて慌てて両手を振る。
ただ、思いが通じたかのように全てを話さなかったこと、そして戻ってきて本当に良かったと言ってくれたことが、言い様のない感情を沸き立たせ理解が追い付かなかった。
聞かれたとしても説明することも出来ないだろうし、不思議そうに見られては居た堪れなくてココアのおかわりを問うと市ノ瀬が首を振った。
「や、もう話は済んだし俺は帰る」
「そ、わかった。 あっきーは?」
「そう、ですね…台本の暗記を確認したいのですが」
「なら付き合うよ! 俺も一応半分くらいは覚えられたから確認したいし」
「ありがとうございます」
「じゃぁ、市ノ瀬送ってくるからちょっと待ってて」
「は? 別に良いよ。道覚えてるし」
「いいからっ!じゃぁ、また後でっ!」
「えぇ。2人とも道中お気をつけて」
「あぁ」
市ノ瀬がこれ以上不服申し上げる前にと勢い良く立ち上がり上着を羽織ると、安積を待つことなく玄関へと向った市ノ瀬を追いかける。
靴を履くと1度振り返り、リビングに居る班乃へと“飲み物好きに飲んでて良いから”と一言残してからドアを閉めた。
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