Pop Step

慰弦

文字の大きさ
上 下
291 / 1,150
- 15章 -

-憧れ 妬み-

しおりを挟む


「俺の話はそれだけだからっ…で、お前の話ってなんなんだよ」

「あぁ……それな。…それは、あれだよ」


とりあえず喧嘩も回避出来たし、謝罪は出来た。今一釈然としない感じはあったけどまぁ、良いだろう。

それよりも、市ノ瀬の話というのが気になる。

転校初日に殴ってしまってから、まともに話をしたことがないのにも関わらずだ。

なんの話なのか、まったく予想がつかない。

自分の話の番になると、いつも自信満々に話す市ノ瀬には似つかわしくなく言葉を濁した。


「…お前、この間さぁ」

「うん」

「1人で…あれ、探してただろう」

「あれ?」

「だから…」


再び言葉を濁した市ノ瀬だったが、苛立たしげに手の中で弄んでいたココアを持ち上げ自棄糞やけくそ気味に飲み干した。

『えっ、無理っ』

実は猫舌な安積がそんな事を思っていると、大きく息を吐き出した市ノ瀬がキッと安積を睨み付けた。


「指輪だよっ。 俺が投げ捨てた、あれっ」

「あぁ…って、えっ?なんで知ってんだよ」

「たまたまだよ。たまたま川の辺り通って…そしたら1人で川遊びしてる変な奴がいたから」

「遊んでねぇよ…まぁ、結局見つからなかったけど」

「だろうな」


そして再びの沈黙。

『…どの口がそんな事っ』

見つからないとのうのうと言い放つその態度が癇に障る。我慢我慢と言い聞かせ、気づかれないよう机の下で両手をぎゅっと握った。


「…で、それがなんだよ。 別に俺がなにしようとお前には関係ないと思うけど」

「そうだな。 関係ない。 ただ…気になっただけ」

「あ、そう。… 話はそれだけ?」


このまま話を続けてたらまたイライラが募りそうで、出来れは直ぐにでも帰って欲しい衝動に駆られて、話を終わらそうとしたのだが…


「…なんで、他人の為にそんな事出来るんだよ。 普通に考えて川に投げ捨てた物が見つかるわけないだろ。 明だって気にするなって言ってたし」

「………」


いつの間にか市ノ瀬までもが班乃を名前で呼んでいる事に気がつき、心の中に理由の分からないモヤが急激に広がっていく。

『…明を名前で呼んでたのは俺だけだったのに』

しかし今はそんな事よりも話をしないとと、意識的にモヤから目を反らした。


「…見つかるわけないなんて、探してみないと分んないじゃん。 確かに気にするなって言ったけど、あれをどれ程大切にしてたか、明がどんな人なのか知ってれば、それが強がりで言ってる事くらい分るよ。 …お前には分らないだろうけど」


お前はなにも分からない。

その自身の発言が、求めていたわけではないのに目を反らしたモヤの答えを導いてきた。

自分は市ノ瀬に嫉妬してる。
明を独占したいって思ってる。
彼を理解しているのは自分だけで
明の特別は俺だけだって…
俺だけで居て欲しかったと。

このモヤモヤの原因は、きっとそれだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

愉快な生活

白鳩 唯斗
BL
王道学園で風紀副委員長を務める主人公のお話。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

そんなの真実じゃない

イヌノカニ
BL
引きこもって四年、生きていてもしょうがないと感じた主人公は身の周りの整理し始める。自分の部屋に溢れる幼馴染との思い出を見て、どんなパソコンやスマホよりも自分の事を知っているのは幼馴染だと気付く。どうにかして彼から自分に関する記憶を消したいと思った主人公は偶然見た広告の人を意のままに操れるというお香を手に幼馴染に会いに行くが———? 彼は本当に俺の知っている彼なのだろうか。 ============== 人の証言と記憶の曖昧さをテーマに書いたので、ハッキリとせずに終わります。

帰宅

pAp1Ko
BL
遊んでばかりいた養子の長男と実子の双子の次男たち。 双子を庇い、拐われた長男のその後のおはなし。 書きたいところだけ書いた。作者が読みたいだけです。

BlueRose

雨衣
BL
学園の人気者が集まる生徒会 しかし、その会計である直紘は前髪が長くメガネをかけており、あまり目立つとは言えない容姿をしていた。 その直紘には色々なウワサがあり…? アンチ王道気味です。 加筆&修正しました。 話思いついたら追加します。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

処理中です...