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- 15章 -
-君と僕と君と-
しおりを挟む『あーもうっ! なんかイラつくっ!』
モヤモヤした気持ちがどうしても収まらなくて、並んで歩いているその間に割り込みたい衝動に駆られて…
でも、2人を見ているのが辛くて早くから離れたくて。
このまま此処に居たら、自分がとんでもない行動に出てしまいそうで…
何故そんな気持ちになってしまうのかも分からなくて
苦しい。
もうなにがなんだか解らなくなってきた。
『……あ、れ?』
その時、なにか暖かいものが頬を伝う。確かめる様に指でなぞり指先に視線を落とすと、朝の光を浴びた指先がキラリと光った。
『なんで…俺……』
その瞬間、嫌な閉塞感が喉を襲う。
今まで何度も経験したコレは…
『ヤバっ』
そう思うと同時に一気に喉が狭まった。
取り込む酸素が急激に減り、これじゃ足りないと体がせがむ。ジワリと視界を滲ませるそれは、いったい“どっち”が原因なのだろうか。
けれど、今はそんな事よりもー
『知られたくないっ!』
HR前の沢山の生徒が集まる廊下でなんて都合が悪すぎる。けれどボヤける視線の先では、班乃と市ノ瀬が楽しそうに会話を交わしており班乃に助けを求める事は出来ない。
「前回の衣装とかはどうしてんの?」
「そうですね…僕の知る限りでは演劇部で保管してるようですけど、中には思い入れがあるからと卒業時に持って帰る人…も」
喜ばしい程予想外に部活へと興味を持ってくれた市ノ瀬に質疑応答している最中、先程までずっと後ろを付いて来ていた足音が途絶えた事に気がついた班乃が後ろを振り返ると、少し離れた所で安積が俯き立ち止まっている。
「…安積? どうかしま」
なにかあったのかと問いかけたその言葉は、安積の頬を伝いポタリと落ちた雫によって音をなし終えなかった。
言葉も発せず、肩は異様なほど上下に動いている。喉元を押さえるその手には、骨の形が分かる程に力が入っていた。
それが意味する事なんて1つしかない。
『どうしてここでっ?』
窓も空いているし、空気だって悪くない。部室は暖かかったとは言え発作を起こすほど激しい温度差ではなかった筈だ。
『いや、なんでなんて今は大切じゃないっ』
瞬時にして頭の中をそんな考えが巡り、よろける様に1歩後ずさった安積へと駆け寄り手を伸ばすが…
その手は乾いた音と共に弾かれてしまった。
「っ……安積?」
苦しいのだろう。
両目に涙を溢れさせて、顔が紅潮している。
それなのに…
「お前、なにして―」
班乃の行動を不思議に思い近づいてくる市ノ瀬を避けるように背を向けると、安積は逃げるように踵を返し近場にあったトイレへと駆け込んだ。
保健室まではもちそうになく、個室に駆け込んで常時持ち歩いている薬を思いきり吸い込む。
ここなら後からなにか言われたとしても、最悪お腹を壊したで誤魔化せるだろう。
そんな誤魔化し方は本意ではないが、安積にとっては喘息だとばれるよりはましだった。
幸いな事に呼吸は直ぐに落ち着き、足りていなかった酸素を大きく吸い込み深く吐き出す。いつものコトだけれど発作の後の気だるさは慣れないものだ。
洋式トイレの蓋を下ろし腰掛けると、全身の力を抜きぼんやりと天井を見上げる。
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