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- 15章 -
-君と僕と君と-
しおりを挟むまだ薄明るくもなっていない時間、安積はけたたましいアラーム音で目が覚めた。
「んー…んー? まだ5時半じゃん」
アラームを止めてもう一度布団に潜り込む。いつもアラームがなるのは6時頃のはずなのに、何で今日はこんな早くに鳴ったのか…
まだ寝ぼけている頭で考えているうちに、ぼんやりと昨日の事を思い出してきた。
『そうだ、昨日は川に指輪を探しに行って、結局見つからなくて、あっきーに会って…』
それで…
「そっか…昨日…は、帰ってきてから直ぐに寝ちゃったんだった。 …風呂、入んなきゃ」
のそのそと布団から抜け出し着替えを引っ張り出すと脱衣所へ向かう。湯船に入る時間はなく熱目のシャワーだけを済ませると、ようやく頭が冴えてきた。
頭にタオルを載せたままなんとなしに鏡を見ると、そこに映る自分がなんだか違う人のように見える。
「んー…ぅーん。 なんでだぁ?」
暫くそうしていても、原因は思いつかない。
「…ま、いっか」
今日からは部活にも市ノ瀬が居る。でも、いつまでも避けては通れないのだから、頑張るしかない。
鏡の中の自分に向かって元気つけるように笑いかけ、元気は食事からっ!と、独り言を呟いて台所へと向かった。
「あっ」
風呂から上がり、朝ごはんも食べ終わり、学校へ行く準備が出来たのはいつもより早い時間ではあったが、結局はいつも通りの時間に着く。
いつもなら、自分が部室に着く時間には既に部室にいる人物が、今日は校門の所で立っているのが目に入った。
「あー…」
声をかけようとした瞬間、秒にして昨日の事が頭を駆け巡った。
“班乃がアクションを起こすまでは”と決めたは良いものの、いざ本人を前にしてしまうとどうも気まずい。
なんと話しかければ良いんだろう。
『…いや、だから普段通りで良いんだって』
只でさえ、班乃も市ノ瀬の事で頭を悩ませて居るのだ。自分までもが負担になるわけにはいかない。
気合を入れるため、深呼吸をしようと大きく息を吸い込んだその時…
「あっ、おはようございま」
「ぶはっ!」
「…えっ? なに? どうかしました?」
深く深く吸い込んだ息が吐き出される前に声をかけられ、逃げ場の失った息が一気に湧き出した。
不思議そうに自分を見つめる班乃の顔を何故か直視できず、ひとまず片手を振ってなんでもないと示す。
『…だからさっ、普通にしろってっ…俺っ!』
こんなんじゃ意識してると思われてもおかしくない。自分から気まずい空気作ってどうするというのだ。顔を背けたまま1度目をつぶり、心を落ち着かせようと試みる。
が。
「来たんならさっさと部室行こうぜ。寒いし…」
「…っ!」
「あぁ、すいません。行きましょ、安積」
「……うん」
『…なんで市ノ瀬がここに居るんだよっ』
班乃の後ろからポケットに手を突っ込んだ格好で出てきたのは、悩みの種の市ノ瀬本人だった。
同じ部活なのだから一緒に居るのは不自然ではないのだけれど…
せめて心の準備をさせて欲しかった。
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