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- 15章 -
-君の為に-
しおりを挟む「俺っ「おーい! 班乃!!」」
その言葉にかぶるようにして遠くから誰かが呼ぶ声がし、出かけた言葉を飲み込みその声の方へ向くと恐らく教師と思われる人物が自分達めがけかけてきていた。
「あれ誰?」
「…生徒会顧問です」
そう吐き捨てるように呟いた班乃の表情は明るいものではなく、肩で息をした顧問が2人の下へとたどりつくと1枚の紙を差し出した。
「これっ、部費の調整書! 去年のと見比べて無駄を省いて欲しいんだけど…頼めるか?」
「はい。 えーと…全部活ですか?」
「や、文化部に関しては会計が終わらせてくれたんだけど、予定があるとかで運動部に関しては手が回らなくて…これ明日までなんだよ。出来るか?」
「えぇ、大丈夫です」
「さすが班乃!! 悪いな、頼んだっ!」
「頼まれました」
一連の会話を終わらせた後、未だ整っていない息を深呼吸で整えながら手団扇をはためかせた顧問は疲れた足取りで職員室へと帰っていく。
「…という事なので、すいませんが今日はこれで。 えーと、駅までの道は分かりますか?」
「馬鹿にすんなよ。 そんなことより」
「はい?」
「嫌なら断れば?」
「なにをですか?」
「今、あからさまに嫌そうな顔してただろ? それに部費の計算なんて会計の仕事じゃねぇか。 自分の役割放り出して自分の都合優先するとか無責任過ぎ」
「あぁ…そういうことですか」
まるで新種の生き物を目にしたような、まったく理解できないと貼り付けた顔で向けられるその視線に、なんだか面白くなり自然と笑顔が浮かぶ。
「まぁ、正直面倒くさいという気持ちはありますよ。 でも、中途半端が嫌いなんです。 これは自分自身の挑戦というか…生徒会や委員長、与えられた役割に妥協はしたくなくて」
「それが他人の妥協のせいで回ってきた仕事だとしてもか?」
「えぇ。役員が手を回せない時にそれを補うのも、生徒会長の役割だと思っているので」
渡された紙を折りたたんで鞄にしまい、校舎にかけられた大時計を見る。
「後、1時間半…いえ、1時間で終わらせます」
誰に言うでもなく自分自身に呟いてから、まだ隣に立っている市ノ瀬へと申し訳なさそうに顔を向けた。
「では、僕はまだ学校に残っていきますので…気をつけて帰ってくださいね」
「あぁ」
「それではまた明日」
帰宅中の生徒達の波を逆らって校舎の中へ消えていくその後ろ姿を暫し眺めてから、先ほどから手の中で転がしていた物を取り出してみた。
それは手入れこそされているようだが、飾りもなにもついていない、お世辞にも綺麗ともかっこいいとも言えない代物だ。
よくよく見れば、内側に小さな文字でアルファベットが刻まれている。班乃のイニシャルではないようだけれど…
「これが…なんなんだよ」
そんな呟きに通りすがりの生徒が何人か振り返ったが、それを無視して自身も帰路へつくのだった。
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