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- 15章 -
-君の為に-
しおりを挟む思わず凝視すると、気まずそうに目をそらされた。
なんだろう、この感じ。
褒められて嬉しいという感情と、それとはまた違う感情。
よくは分らないが、これは悪い感情には感じられない。
「それよりっ!」
お互い喋らない時間に痺れを切らしたように声を荒げると、きょろきょろと周りを見渡した。
「あいつは?」
「あいつ?」
「だから、俺を行き成り殴ってきやがったアイツだよ。アイツも演劇部だろ?」
「あぁ、安積ですね。そうなんですけど…どうしたんでしょうね。いつもならHR終わると競う様に一緒に部活へ来るんですけど、今日は教室に居なくて」
「…そう」
「まぁ、もしかしたら先に来てるかもしれませんし。入りましょ?」
「………」
それからたっぷり1時間半。
お疲れ様でしたという挨拶と共に今日の部活が無事終了した。
市ノ瀬の発言通り、特に問題も起きず無事に終わらす事が出来た。
結局、台本を直す事も配役を増やす事もせず、今回市ノ瀬は大道具や小道具、音響係りなどを色々と携わっていくという事で話がつき、更に予想外なことに、それに対して不満を漏らすこともなく受け入れたのだ。
「貴方が不満がないのなら良いのですけど…本当によかったんですか?」
「なにが?」
「…演技を学びたいと言っていたでしょ? なので今回の決定に不満はないのかと思いまして」
「あぁ…」
部活動の時間が終わり、一斉に生徒達が下駄箱へと集まっている中で、市ノ瀬と班乃は話しながら校門へと向かっていた。
「不満はないと言えば嘘になるけどな。 でも、全体を把握しておくのも大事だろ」
「…そうですよね」
意外だ。
意外すぎる。
自分は完全に市ノ瀬の事を見くびっていたのかもしれない。
いや、見くびっていた。
こんなにも色々と考えているとは思ってなかった。
なにも問題を起こさなければいいなとしか思って居なかったと思う。
「頑張りましょうね」
「あぁ」
嬉しい。
真剣に演劇に向き合ってくれているその姿勢がすごく嬉しい。
もし、市ノ瀬が安積と上手く折り合いをつけていけるのなら、もっともっと楽しくなるに違いない。
「本当、頑張らないと。 僕だって負けていられません」
「なにお前。力み過ぎでウケる」
「だって、嬉しいんです。 貴方が真剣に考えてくれているのが。同じ部員として、これからが楽しみでしかたありません」
「………お前」
「だから、僕も負けていられませんね」
そう言って心から楽しそうに笑うその姿に、市ノ瀬は喉を鳴らした。
『ーどうしてこいつは…』
「…なぁ」
「はい?」
もう直ぐ校門を出るという所で立ち止まると、ポケットに入れた手で中にあるモノを数回転がし、意を決したように顔を上げた。
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