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慰弦

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- 15章 -

-君の為に-

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「……あれ?」


HRが終わり鞄を肩にかけると後ろを振り返る。 しかし、そこにあるはずの姿はない。

いつもなら、“早く行こう!”なんて言っていち早く駆け寄ってくるのに…

『いったい、どこにー』


「おい」


1人疑問に思っていると不意に声をかけられ、振り返った先にはなんとも感情の読み取れない表情をした市ノ瀬が立っていた。

『…そうでした。今日からは市ノ瀬君も一緒なんでした』


「入部届け出さなきゃいけないんだろ。どこ行けば良い?」

「すいません、伝達不足で。昨日と同じ場所で大丈夫です。一緒に行きましょう?」


つい一緒に行こうと口に出てしまったが、自分は嫌われているのだ。鬱陶しがられるかもしれない。

しかしクラスも部活も一緒なのだから、わざわざ別々に行くのも不自然ではないだろうか。でもー…

一瞬にして頭を駆け巡った心配とは裏腹。視聴覚室へと歩き始めると、少し離れてはいるがどうやらついて来てくれているようだった。

それならばと、背後に市ノ瀬の気配を感じながら部活の現状の説明をすることにした。


「…昨日役決めをしたのですが、市ノ瀬君が入ってきてくれたのでもう1度決めなすかもしれません」

「そ」

「その事で今朝部長と話をしたのですが、決め直しではなく新しく役を増やして市ノ瀬君にやってもらうのもありかも、と。勿論、希望があれば裏方でも良いとは思いますが」

「ふーん」


問いかけに続く素っ気ない返事からは、熱意や意欲といったものがどうにも感じられない。

演劇を学びたいと言った彼の意思は、もしかしたら思ったよりも大したものではなかったのではと落胆が胸によぎった。


「…市ノ瀬君はどちらがいいですか?」

「なにが?」

「決め直すのと、新しく配役を増やすのと」

「…別にどっちでも良いよ。キャストじゃなくても構わねぇし。演劇部がどんな感じなのかも分らねぇのにそんな事言われてもな」

「…そう、ですか」

「…別に心配しなくても振られた役割に文句なんか言わねぇよ。役貰えたとしたって最初から希望通りになるとか良い役貰えるとか思ってねぇし」

「そう、ですか。…配役、配役ねぇ。…あぁ、配役かぁ。そういえば」

「….んだよ」


配役といえばだ。安積は目に見えて背が小さく中性的な顔立ちをしていたので、直ぐに女性役というイメージがついたのだけど。

市ノ瀬ならどんな役が似合うだろか?

振り返りると、少し離れてついてきていた市ノ瀬を眺める。


「なんだよ」

「いえ…」
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