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- 15章 -
- 波乱 -
しおりを挟む昼休み。
屋上に集まり恒例のメンバーで昼食を囲む。
いつも通りの顔ぶれなれどいつも通りではない様子の人物に、昨日と同じく植野と鈴橋が顔を見合わせた。
無言のまま植野が視線だけで班乃へと問いかけるが、ただただ困ったような笑みが返されるだけだった。
「あの、さ、せーちゃん…何かあった?」
「別になにも。なんでよ?」
「なんでって、お前自覚してないのか?」
「は?自覚?別にいつも通りでしょ?」
「……そう」
2人の問いかけを間髪いれずに否定して見せる本人だったが、どう見たってあからさまにに不機嫌だ。
今までに見たことがないほどに。
というか、不機嫌になっている事自体が初めてかもしれない。
問いかけには一応返答を返すが、その声色からは話しかけるなという意思がひしひしと伝わってくる。
普段が普段なだけに、対応に困ってしまう。
「…あぁ、そういえば、綾雪はもうすぐ大会ですよね?調子どうです?」
そんな空気を変えるよう明るい声で話し始める班乃に、安積の様子を気にしつつも植野が嬉しそうに答えた。
「絶好調ですよっ! 昨日はがっ…」
「…が?」
「…………」
「がっ…つりと新記録だせたしっ!!」
「…なる程、応援は力になりますもんね」
「やっ…いや、まぁ、そうですね」
“がっくん”と言いかけたことも、それを鈴橋の鋭い眼光が阻止したことも、それにより慌てて誤魔化した事すらもまるわかりで、気まずい空気の中に訪れた微笑ましい状況に少しだけ心がけ和んだ。
「その調子でメダル取れればいいですね。頑張って下さい」
「ありがとうございますっ!」
「学君は行くんですか?」
「どこに、ですか?」
「綾雪の応援に」
「…なんで俺が?」
「お2人はとても仲が良いでしょ?だから行くのかなと思ったんですけど…」
今度は先ほどとは違う理由で顔を見合わせる2人。暫し見つめあった後、貸すかに紅くなった顔を俯かせた鈴橋は、小さく“都合が合えばな”と呟いた。
目の前で交わされるそんな会話にも安積は終始口を引き結び喋らないまま、昼休みももう間もなく終了の時間になってしまった。
「俺、先教室に戻るから」
食べ終わった物のゴミを手早くひとまとめにし短く言葉を発した安積は、返答を待つことなく立ち上がり出口へと歩きだす。
「えぇ、分りました」
立ち去る後ろ姿に投げ掛けた班乃の言葉に足を止め、少しだけ振り返ると申し分けなさそうに笑い、“ごめんね”と消え入りそうな声で残し、静かに屋上を後にした。
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