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- 15章 -
- 波乱 -
しおりを挟む「…それ、なに?」
清々しい朝日を浴びながら、まだ真新しい台本をうっかり手から滑らせながら安積は呟いた。
「昨日市ノ瀬君と部活動を色々回ってみた結果、演劇部を希望されたので入部届けをいただいたんです」
安積の目の前に貰ったばかりの入部届けを見せるように差し出してから、それを失くさないようにと自分の台本の間に挟んだ。
「…市ノ瀬が、演劇部?」
「えぇ、将来の事を考えての結論だったようなので」
「なにそれ」
「まぁ、彼なりにちゃんと考えて決めたことって事ですよ」
昨日決まった自分の配役名に蛍光ペンで印を付けながら答える。意外と台詞が多く、覚えるのに時間がかかりそうだ。
そんな様子を暫し無言で眺めてから、安積も同じように自分の配役名に印を付けていく。
暫しお互い無言の時間が流れ、ペンが紙をなぞる音と紙をめくる音が響く。
「仲良く…できるかなぁ」
印の付け終わった台本を静かに閉じてから、視線を下に落としたまま静かに呟いた。
それは誰かに問いかけるというよりは、自分自身に言っているようであった。
「…少し癖のある子のようなので時間はかかるかも知れませんが…でも大丈夫です。頑張りましょう」
「うん」
正直これからの事に不安がないとは言えないが、演劇を素直に楽しんでいる安積の為にもなんとかしなければいけない。
台本を読んでいるその不安そうな横顔を見てから、班乃は密かな決意をしたのだった。
「お待たせしました」
「なに? あぁ、入部届けか」
HR前、自分の席でクラスメイトと話をしていた市ノ瀬へと貰いたての入部届けを差し出した。
「ココに名前だけ書いていただければ結構ですので」
「分かった」
そんな2人の会話を、安積はあえて自分の席で聞いていた。
『俺も演劇部なんだし、本当は挨拶くらいしないといけないんだろうけど…』
市ノ瀬は入部届けの記入欄を指差して説明するその声と、その指先の指す箇所をどうでも良さそうに眺めていたのだが、何かに気がついたように班乃のその手をとった。
「え…? なん、ですか?」
急なその行動に目を丸くして問いかけると、少し睨むように自分へと顔を上げた。
「学校、アクセ類禁止だろ?」
「え? あぁ…まぁ、そうなんですけどね」
その指には、もうこの世には居ない彼女とつける予定だったペアリングがはまっていた。
『時間かけてゆっくり思い出にしていけば良い。彼女だってそれを望んで居てくれてると思うし』
いつか安積に言われた言葉。それに甘えて、今でもその指輪を外せないでいた。
「まぁ、会長だし良いんじゃない?」
「はぁ?」
「なんつーの? 俺らと違って生徒会だってクラスの委員長だってやってくれてるし」
「頭もいいし」
「別に指輪くらいなぁ」
そんなクラスメイトの言葉に言い返しはしなかったが、その顔はあからさまに “ 不機嫌 ” の文字が浮かんでいた。
これは余り良い流れではないかもしれない…
「いえ、そう言って下さるのはありがたいんですけど…校則違反な事には変わりないですし」
そろそろ外す頃合かもしれない。いつまでもこうして縋っていてもしょうがないしと、静かにその指から指輪を外した。
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