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慰弦

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- 15章 -

- 転校生 -

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「不快にさせたならごめん。頭の回転遅くてさw」

「………」

「そうだっ!今日台本と配役決める日じゃん?あっきーは参加できないし、どーする?」

「僕は特に希望もありませんし恐らく投票で決まると思うので、後で台本と配役を教えていただければ結構ですよ」

「分ったっ!来られないことも先輩に伝えとくねっ!」

「えぇ、よろしくお願いします」

「おけっ!じゃぁ、また帰りっ!」


軽く片手を上げその場を去ろうと背中を向けたその時…


「うっざっ。なんなのお前?」

「……なん、なの?」


包み隠さず直球に投げられた言葉が、そのまま去ることを許してくれなかった。なんなのと言われても、なんの事を言われているのか検討もつかない。

思わず立ち止まり振り返ると、先程以上に苛立った顔の市ノ瀬が自分を見下ろしていた。


「そういう恩着せがましいの、すっげぇ腹立つんだけど」

「恩、着せ…」

「俺の前でわざわざそんな話して、なに?大事な大事な部活に、俺の案内のせいで出れないって言いたいのか?遠回しすぎて気持ち悪いわ」

「別にそんなつもりじゃ…」

「だいたい、案内引き受けたのもこいつだし、それで部活出れないのもこいつのせいだろ。自業自得じゃねぇーか。俺のせいじゃねぇだろ」


そんなこと、微塵も思ってなんかない。

そんなまったく意識していなかった事に対して因縁をつけられここまで言われてしまえば、流石に苛立ちが僅差で恐怖よりも勝ってしまう。

それよりなにより、善意で案内を引き受けた相手に対して、そんな言い方はないだろう。


「別にそんな事言ってないだろっ!?」

「あ゛?」


思わず攻撃的な声で答えてしまえば、市ノ瀬の顔が更に険しくなった。


「ちょっと、2人ともっ!」


不穏な空気を纏い睨みあう市ノ瀬と安積の間に急ぎ割って入った班乃は安積へと笑顔を向ける。安積を怒らせるなんてある意味凄い。変に感心しながらも、この2人は水と油な気がして引き離さなければという使命感に動かされた。


「ほら、早く行かないとお昼時間なくなっちゃいますよ? 学君たちも待ってるだろうし、ね?」

「………」


余り見ない班乃の困った笑顔に、市ノ瀬への苛立ちよりも班乃を困らせてしまっているという事実が申し訳なさが上回る。気まずく目をそらしてから “ 分った ” と小さく呟き今度こそ屋上へと足を向けた。

そんな後姿を見送ってから思わずもれそうになる溜息をなんとか飲み込み、くるりと市ノ瀬へと向き直る。


「すいません。嫌な思いをさせてしまったなら謝ります。さ、僕達も食堂へ行きましょう? お腹すきました」


市ノ瀬がなにか言う前にと背を向け歩き出すと、目論見通りなにも言わず、予想外に大人しく後ろを着いて来る市ノ瀬に1人安心したように笑みをこぼした。
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