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慰弦

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- 14章 -

- 日常のひとこま達 - 演劇部&秋山&長谷川

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そして暫く沈黙が流れる。

心に重たいものを抱えながら兄の面影を求め、病気を抱えまだ10代という若さで実家を離れ1人暮らしを決意し、知らない土地の新しい学校で1から生活をしていく。

そのような状況でも、いつも明るく元気で苦労や悩みを表に出すことは決してなかった。それだけではなく、いつも他人を気にかけ優しさを見せてきた。

墓参りの時だって…

けれどー


「…疲れないわけは、ないんですよね」

「……ぅん? なんか、疲れちゃったの?大丈夫?」


その行動力に感心してはいたけれど、だからといって不安がないわけではなかっただろう。

思った以上に思考していたようで、それは返事をした安積の声が寝かけていた時のそれとなっている事が物語っていた。


「すいません。起こしちゃいましたね」

「うぅん。へーきへーき。なにかあったの?」

「いえ。ただ…そうですね。貴方が寂しく感じる時は…呼んでくれれば泊まりにきますよと、お伝えしようかと」

「…えぇ?なにそれちょー優しいじゃん。惚れるわw」

「…良いですよ。惚れても」

「やだー、そんなこと言われた困っちゃうww」


静かな室内に安積の控えめな笑い声がクスクスと響く。冗談で言った自身のその言葉に違和感を覚えながら笑い声が収まった頃を見計らうと、お休みなさいと声をかけた。

しかし返事が返ってくることはなく、もしかしたらこの瞬間にも寝てしまったのかもという可能性に驚きを隠せない。

けれど、先程の起こしてしまったかのような様子を思い返せば無理もないかと、班乃も静かに目を閉じて寝ようとする。が、寝てしまったと思っていた安積の声が不意に耳に届いた。


「じゃぁさ…」

「はい?」

「もしも、もしもだよ?」

「はい」

「毎日寂しいって言ったら、一緒に住んでくれる?」

「…貴方がそうして欲しいなら考えます」

「ありがと。今日はいい夢見れそう」


ベッドの上、布団から顔半分だけ出ていたその目元に柔らかな笑みを作りお休みを言うと、隠れるように安積が頭から布団をかぶった。

それを見届けた班乃も、今度こそ寝ようと肩まで確りと布団を被る。

静寂の中、互の微かな息づかいだけが優しく耳に届く。気を許せる誰かの存在が、どっぷりとした安らぎを連れてくる。

しかし、それと同時に少しの後悔も浮かんでしまう。

『…もしかしたら困らせたかも』

求めていた様な言葉を貰ったくせにと思うかもしれないが、面倒見も良く優しい故に、変な気を使わせてしまったかもしれない。

申し訳なさに心の中で謝りを入れるが、それでも言って良かったと浮かんでくる思いに矛盾を感じながら今度こそゆっくりと夢の中に落ちていった。
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