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- 14章 -
- 日常のひとこま達 - 植野&月影
しおりを挟む「まじで?」
「まじです」
ようやく出た言葉はそれだけで、敬語すらも忘れている。
「まぁ、俺の事は良いとしてさ、君達が上手くいってくれてたら良いなって思ったんだけど」
「あっ…はい。今のところは何とか上手く行ってますけど…それより、えっと…なんて言ったら良いのか、ちょっとあれなんですけど」
「ぅん?」
「大丈夫なんですか?」
「 大丈夫って、なにが?」
あんなに悩んでいた鈴橋との事を “ それより ” と表現してまで言い放った気使いの言葉。
大丈夫とは、一体なんの事を言っているのか…
「あ、いや…そういうの見える人って大変そうだなって。自分だったら気狂いそうかも…」
「…はぁ」
「はぁ、って…道歩いてるだけでも見えたりとかするんですよね? あっ、見えるとは言ってないか」
「…見え、なくはない、けど」
「えぇー……辛っ」
「ぃや、そこまででもないよ…見ないようにすることも出来るし」
「なにそれすげぇ!…でもうっかり見えちゃったとかないんですか?その、事故現場とか…色々」
「まぁ、ないことはないけど…」
「あー…俺無理だわ。見えなくて良かったぁ」
なんだろうこの感じ。
あ、そうだ…
「鉄司二号…」
「え? 鉄兄?」
「…ふっ、あははははっ」
「え?」
行き成り笑い出した月影にキョトンとするしかない。かける言葉も見つからず、とりあえず笑いが収まるのを待った。
「あー…ごめんね、あまりにもっ、あはは」
「い、いえ、別に。 俺なにか変なこと言いましたか?」
「ううん、言ってないよ。俺、君の事好きだなぁ」
「はいっ!?」
「鉄司には及ばないけどね」
「はぁ…?」
「まぁ、いいや。なんか、うん。幸せそうだし」
「そう、ですか?」
「うん。空気が良い。幸せな雰囲気がね、凄い。本当、鈴橋君の事が好きなんだねぇ」
「そっ、 そんなストレートに言われると結構恥ずかしいんですけど」
「ぁははっ、ごめんごめん。 じゃぁ、そろそろ帰ろうかぁ。急だったのに付き合ってくれてありがとうね」
立ち上がり上着をはおる月影に続いて植野もそれに習う。会計で財布を出そうとする植野に軽く片手を上げ制する姿に、大人の姿を見た気がして少しだけ格好良さを感じた。
この人の場合は常日頃の雰囲気からしての相乗効果な気もするが…
「俺こそありがとうございました。まさか、あの時の人が月影さんだと思いませんでしたが…助かりました。がっくんと上手くいったのは、あの時月影さんに励まされたおかげです」
「そう? 力になれたみたいで嬉しい。本当、良かったね」
頭一つ分は背の高い位置からにこやかに笑う顔は、長谷川とは違う大人の雰囲気が漂っている。
…普段緩々マイペースで、若干電波の入っている人なのに、一瞬一瞬で垣間見える大人の片鱗。
やっぱり鉄兄と同じ歳なんだなぁ~、とぼんやりと考えてみる。
「あっ…」
「どうしたんですか?」
「ちょっと思いついた」
「え?」
「なんか、こう…インスピレーションが」
「インスピレーション?」
「ごめん、先に帰るね!」
近くにいたタクシーを拾って、颯爽とその場から立ち去る姿を呆然と見つめるしかなかった。
その速さ脱兎の如く…
まぁ、歩いて帰れない距離でもないし送りとかはいらないんだけど。
「マイペースを極めてるような人だなぁ…」
なんだか、尊敬出来そうで出来ない感じ。
あぁ、なんか鉄兄に会いたいかも…
仕事中だろうし行った所で2~3言しか話しできそうもないけど。
そんな事を思いながら長谷川の働いているレンタルショップへと足を向けた。
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