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- 14章 -
- 日常のひとこま達 - 植野&月影
しおりを挟む「お邪魔しました」
「いえいえ、また来てね」
「気をつけて帰れよ」
お昼ころ、御泊りしていた鈴橋家の人々に挨拶をして植野は帰路に着く。
まだ時間もあるし買い物でもしてい行こうとデパートへと足を向けるが特に買うものはなく、適当にぶらぶらしていると見知った顔を見つけた。
いつもと違い、長い髪を一つにまとめている。
『別に声かけなきゃなわけじゃないけどこの前ご飯もご馳走になったし、もー1回お礼言っとこうかな』
真剣に買うものを物色中のその人物に近づいてみるが、全くこちらに気付いた様子はない。
…買い物に真剣過ぎる。
「こんにちは。月影さん」
「わっ!? あっ、あー、植野君かっ!こんにちはぁー」
驚いたように振り向き植野を目にすると、一変してゆるい笑顔で挨拶を口にした。
月影の正体を知ってから暫くたつが、謎の人物だった期間が長かったせいで未だに違和感が拭えない。
「なにか買い物ですか?」
「うん。スケブとかキャンバスとか…新しい服に合う様な生地とかあるかなぁーって」
「仕事で使うモノだったから真剣だったんですね」
「仕事だからねぇ」
一見尊敬できそうな事を言ったその顔は、先程の真剣な表情とは違い、趣味のものでも選んでいるかのようなほんわかした雰囲気をかもし出している。
先程の真剣な表情との違いに裏表を見た気がして若干恐怖を感じるが、それだけ仕事に真剣なのだと思えばそれはそれで尊敬出来る所だ。
思わずその顔を見つめると、その視線に気がついた月影も負けじと植野を見つめ返す。
そうしていること数十秒。先に目をそらしたのは植野だった。
特に他意はなかったのだが、男二人で見詰め合っている事実に気がつき、急速にこっぱずかしくなり顔ごと背ける。
そんな植野に、何故か得意げな笑みを浮かべた。
「あの…?」
「にらめっこは負けたことないんだぁ~」
またしてもヘラっと笑ったその顔に、植野はひっそり溜息をついた。
『考えてる事が分からなすぎるな…』
「そうだ、この後時間ある?」
「えっ? 俺ですか?」
「うん」
あるかないかと聞かれたら…ある。
宿題も昨日鈴橋と一緒に終わらせてしまったし、今日は部活もない。
「はい…あります、けど?」
「本当? じゃぁさ、ちょっと聞きたい事があるんだけど、ちょっとお茶でもしない?」
「俺に、ですか?」
「そう!」
…聞きたいこと?
なんだろう?
殆ど個人的には係わり合いの少ない月影が、自分に何を聞きたいのだろう?
安積の事だろうか?
まったく予想は出来ないが、なんにせよその内容は気にはなる。二つ返事でその誘いに頷くと、嬉しそうな笑顔が向けられた。
「ありがとー!じゃぁお会計済ませてきちゃうからちょっと待っててね?」
そう言ってレジへと向かう月影が隣を通った瞬間、何か違和感を覚える。
なんか、あまり良いイメージではないなにか。
『なんだ、この感じ?』
答えがでないまま、2人は話をするために月影の運転でデパートを後にした。
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