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- 13章 -
- 事実は小説よりも奇なり -
しおりを挟む- おまけ -
「素直な聖ちゃんが好き、ね…」
「えっ、なに?急にどーしたの?」
「……別に」
ご好意で泊まらせてもらえることになり鈴橋の部屋でのんびりしていた植野だったが、隣に座る鈴橋の唐突な呟きからは静かな不機嫌さが醸し出される。何事かと鈴橋へと目をやるとパッとそらされてしまう。
「……」
「……なんか怒ってる?」
「怒ってない」
『なにっ!?俺なにかしたっ!?』
今の今までいつも通りだった…いや、だったのだろうか?元々口数が少ない為分かりづらいが、今思えばいつも以上に少なかった気もする。
『素直なせーちゃんが好きって…素直なせーちゃん、が……』
「風呂入って来る」
「あっ…!俺…も」
“一緒に行く”という言葉は、即座に鋭い鈴橋の眼光でふさがれてしまう。
固まる植野を放置しパンッと閉められたドアを困惑気味に眺めていた植野だったが、パッと思い当たった鈴橋の不機嫌さの原因に思わず携帯へと飛びついた。
アドレス帳から電話をかけた相手は…
『はい。 どうしました?』
「ねぇ、ちょっと聞いてくださいよ会長っ!!」
『…お断りします』
「そこをなんとかっ!!」
宿題に予習復習、風呂までも済ませもう寝るだけと言うタイミングでかかってきた電話。無視しようかとも思ったが大事な用だったら…と出てみた班乃だったが、テンションの高い植野の第一声がとどろき面倒くささを含ませた返事をする。
が、そんなのお構い無しなようだ。
『がっくんがチョーかわいいのっ!!』
「良かったですね。ではおやすみなさい」
『あぁっ!! まってまってっ!!』
ノロケならよそでやってほしい…
そんな空気も読まず、植野は話を続ける。
『今日食事中にさ、俺、素直なせーちゃんが好きー、的なこと言ったじゃん?』
「そうでしたっけ?」
『そうなのっ!せーちゃんとはいつもそんな軽いノリだし、それ以下でも以上でもないのにさぁ』
「はぁ」
『がっくんがねっ、嫉妬してくれたみたい!』
「そうですかよかったですね。是非仲直りしてください。それでは」
まだなにか言っているようで声が聞こえているが、一方的に電話を切り班乃はベッドへと潜り込んだ。
幸せに浸っている今の自分は無敵だ!
切られた電話の事など気にもせず、植野は一階へ降りていく。
「あら、綾雪くんどうしたの?」
リビングには鈴橋の母がまったりとお茶を飲んでいた。
「あの、お風呂借りてもいいですか?」
「お風呂?いいけど、今学ちゃん入ってるわよ? 男の子2人で入るには狭くないかしら」
「多分大丈夫ですよー。がっくん小さいしw」
「…それもそうねw」
鈴橋母にきちんと断りを入れ脱衣所へ行くと、物音で気付かれないようにそっと服を脱ぎ、まだシャワーの音のするお風呂場へと突撃した。
植野を凝視し固まったままの鈴橋からシャワーをもぎ取り、まだ泡のついた髪を洗い流し始める。
行き成りの事で頭がついていかなかったのか、暫しそのままおとなしくしていたが、理解が追いついた瞬間…
立ち上がろうとした鈴橋の肩を全力で押さえ込み追い出される事をなんとか阻止すると、今回は背中を洗いっこするだけに留めた。
なんとか理性を留めた自分を褒めてあげたい。
鈴橋もインパクトの強過ぎるアクシデントに、嫉妬所ではなくなったようだ。
紗千は両親と一緒に寝ているため、今日は気を使わなくても良い。
少し強引に同じ布団に入り、自分の腕の中には背中を向けて寝に入っている鈴橋がいる。
なんて幸せなんだろうか…。
「ねぇ、がっくん」
「なんだよ」
「俺はせーちゃんも好きだけど、がっくんも好きだよ。でも、がっくんへの好きはせーちゃんとは違う、特別な好きだから…覚えておいてほしぃな」
その言葉に返事はなかったけど、自分の腕を掴む鈴橋の手に力がこもった。それだけで十分。
そのまま2人は夢の中へと意識を沈めていった。
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