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慰弦

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- 13章 -

- 事実は小説よりも奇なり -

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突然乾いた音が響いたかと思うと、長谷川が前のめりに2、3歩前へ進み出る。何事かと見上げると、そこにはついに言いつけを破り腹の底から楽しそうに笑った月影と秋山が立っていた。

状況から見るに先程の乾いた音は、ほぼ同じタイミングで月影達が長谷川の肩を両側からはたいた音のようだった。

声にならない声をあげその場にしゃがみこむ長谷川へ、その原因を作った2人が同じようにしゃがみこみ嬉々として心配の声をかけている。

この様子だと2人の絡み酒がどんなものなのか、長谷川の話の続きを聞く事は出来なさそうだ、けれどー


「…俺の母さんもさ」

「はい?」

「絡み酒でさ」

「はい」

「泣きながら、綾ちゃん好きー、綾ちゃんはー?とか言って抱きついてくるようなあれなんだけど…」

「甘えん坊タイプですね。可愛らしい」

「…でも、結構相手すんの大変でさ。なんか、同じ匂いがするんだよね。月影さんたち」

「……あぁ。まぁ、さっきから言ってますもんね。好き好きーって」

「母さんが×2って考えたら…」

「貴方のお母さんがどういうふうなのかは分かりませんが…大変そうですね」

「……」


月影等に両側から支えられ立ち上がる長谷川はさながら連れ去られる宇宙人だ。哀れみの視線を集める中丁度代行の車が到着し、月影等が溌剌とした笑顔を学生達へと向けた。


「今日は付き合ってくれてありがとう!」

「楽しかったよっ!またご飯行こうねー!」

「俺も楽しかったです!ひじりのことも、秋山さんたちの事も色々知れて良かったです!」

「こちこそ、夕飯ご馳走して頂き有難うございました」

「鉄兄、頑張ってね」

「……あぁ」


別れの挨拶を交わし各々が車へと乗り込む最中、月影が最後に乗り込もうとした班乃の肩に手をかける。足を止めなにかと問うように見上げるその顔を見つめ、いつだったか班乃に言われた言葉を頭の中で思い浮かべた。


“この瞬間にも相手がどうなるか分らないんです。だから…後悔だけはしない道を選んでほしいんです”


ほんの直前まで笑っていた恋人を一瞬にして亡くしてしまった年若いこの少年から言われた言葉で、弟に向き合う踏ん切りがついたといっても過言ではなかった。


「…ありがとう、班乃君」

「なにがです?」

「君のおかげで、弟とちゃんと向き合う事ができた。本当にありがとう」

「僕のおかげなんかではありませんよ。決めたのは貴方ですから」

「それでも、ありがとう」

「…いえ、とんでもないです。安積もとても喜んでましたし、力になれたのなら良かったです」


そう言うと車の中で雑談し笑う安積へ視線を向ける班乃につられるようにして、月影も弟へと視線を向けた。少し疲れているようにも見えるが、その笑顔は今までのつき物が全て落ちたような印象を放っている。
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