224 / 1,142
- 13章 -
- 事実は小説よりも奇なり -
しおりを挟む突然乾いた音が響いたかと思うと、長谷川が前のめりに2、3歩前へ進み出る。何事かと見上げると、そこにはついに言いつけを破り腹の底から楽しそうに笑った月影と秋山が立っていた。
状況から見るに先程の乾いた音は、ほぼ同じタイミングで月影達が長谷川の肩を両側からはたいた音のようだった。
声にならない声をあげその場にしゃがみこむ長谷川へ、その原因を作った2人が同じようにしゃがみこみ嬉々として心配の声をかけている。
この様子だと2人の絡み酒がどんなものなのか、長谷川の話の続きを聞く事は出来なさそうだ、けれどー
「…俺の母さんもさ」
「はい?」
「絡み酒でさ」
「はい」
「泣きながら、綾ちゃん好きー、綾ちゃんはー?とか言って抱きついてくるようなあれなんだけど…」
「甘えん坊タイプですね。可愛らしい」
「…でも、結構相手すんの大変でさ。なんか、同じ匂いがするんだよね。月影さんたち」
「……あぁ。まぁ、さっきから言ってますもんね。好き好きーって」
「母さんが×2って考えたら…」
「貴方のお母さんがどういうふうなのかは分かりませんが…大変そうですね」
「……」
月影等に両側から支えられ立ち上がる長谷川はさながら連れ去られる宇宙人だ。哀れみの視線を集める中丁度代行の車が到着し、月影等が溌剌とした笑顔を学生達へと向けた。
「今日は付き合ってくれてありがとう!」
「楽しかったよっ!またご飯行こうねー!」
「俺も楽しかったです!聖のことも、秋山さんたちの事も色々知れて良かったです!」
「こちこそ、夕飯ご馳走して頂き有難うございました」
「鉄兄、頑張ってね」
「……あぁ」
別れの挨拶を交わし各々が車へと乗り込む最中、月影が最後に乗り込もうとした班乃の肩に手をかける。足を止めなにかと問うように見上げるその顔を見つめ、いつだったか班乃に言われた言葉を頭の中で思い浮かべた。
“この瞬間にも相手がどうなるか分らないんです。だから…後悔だけはしない道を選んでほしいんです”
ほんの直前まで笑っていた恋人を一瞬にして亡くしてしまった年若いこの少年から言われた言葉で、弟に向き合う踏ん切りがついたといっても過言ではなかった。
「…ありがとう、班乃君」
「なにがです?」
「君のおかげで、弟とちゃんと向き合う事ができた。本当にありがとう」
「僕のおかげなんかではありませんよ。決めたのは貴方ですから」
「それでも、ありがとう」
「…いえ、とんでもないです。安積もとても喜んでましたし、力になれたのなら良かったです」
そう言うと車の中で雑談し笑う安積へ視線を向ける班乃につられるようにして、月影も弟へと視線を向けた。少し疲れているようにも見えるが、その笑顔は今までのつき物が全て落ちたような印象を放っている。
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。


初恋はおしまい
佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。
高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。
※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。
今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。
私の事を調べないで!
さつき
BL
生徒会の副会長としての姿と
桜華の白龍としての姿をもつ
咲夜 バレないように過ごすが
転校生が来てから騒がしくなり
みんなが私の事を調べだして…
表紙イラストは みそかさんの「みそかのメーカー2」で作成してお借りしています↓
https://picrew.me/image_maker/625951
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

チャラ男会計目指しました
岬ゆづ
BL
編入試験の時に出会った、あの人のタイプの人になれるように…………
――――――それを目指して1年3ヶ月
英華学園に高等部から編入した齋木 葵《サイキ アオイ 》は念願のチャラ男会計になれた
意中の相手に好きになってもらうためにチャラ男会計を目指した素は真面目で素直な主人公が王道学園でがんばる話です。
※この小説はBL小説です。
苦手な方は見ないようにお願いします。
※コメントでの誹謗中傷はお控えください。
初執筆初投稿のため、至らない点が多いと思いますが、よろしくお願いします。
他サイトにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる