198 / 1,150
- 13章 -
- 再会 (続) -
しおりを挟む「―…俺だけ、なんの不便もなく両親とのうのうと暮らしてた…そんな権利俺にはないのに。だから、ずっとずっと謝りたくて。今まで何もしてこなくてごめんって。自分の事だけしか考えないで、酷い事してきてごめんって…」
頬に当てられた手をギュッとつかむと、先ほどまでデッサンをしていたせいか、その指からは微かに鉛筆の香がする。
『この匂い…そうだ。昔もよく、絵、描いてたな…』
兄の真似をして、ローテーブルに並び一緒に色々な絵を描いた。あの絵は今、いったいどこにあるのだろう…
思い起こされる懐かしさが暖かな気持ちや罪悪感といった様々な感情をつれてきて、自分の気持ちの所在が分からなくなりそうだ。
揺れ動く心情になんとも言えない表情を浮かべる弟に緩く笑いかけた月影は、弟の言葉が止まったこのタイミングでずっと噤んでいた口を静かに開いた。
「そういうことなら……聖を許すよ。…まぁ許すも何も、俺は聖に酷いことされたとか、聖が悪いことをしたとか思ってもないから変な感じだなんだけど。それじゃ気がすまないでしょ?」
「…思って、ないの?どうして?」
「どうして?そんなの当たり前じゃない。記憶なんて薄れてくものだよ。誰だってね。聖はまだ小さかったし、俺の事思い出してくれただけでも奇跡だよ。俺を見て俺だって気付いてくれただけで凄く嬉しいし、それに俺が今こうして生きているのだって、聖が居てくれたからなんだよ」
「……俺の?」
言っている意味が分らないのか、泣きっ面で頭上にはてなマークを飛ばしているその姿に思わず小さく息を噴出した。
「正直ね、なんで俺ばっかりこんな目にあわなきゃならないのかって思った時もあったよ。祐子さんが憎いって、もう嫌だって、色々投げ出したくなった。でも、お前が居てくれたから、俺はそんな気持ちを祐子さんにぶつける事なく過ごせたんだ。 ―どうしてか分かる?」
「……わかんない。だって俺、なにもしてないもん」
月影の問いに暫く答えを考えてみたが、迷惑をかけたという以外に自分が兄になにかをしたとは思えない。考え付かず正直に口にすると、また月影が小さく笑った。
「…ごめん」
「良いの、謝らなくて。そうだなぁー…あの時は家でも自分の居場所なんてなかったし、学校でも色々あって、もう死んでやりたいって思う気持ちもあったんだ」
「そんなっー」
「だけど聖が会いに来てくれて、嬉しそうに笑って、もっと一緒に遊びたい、大好き、楽しいって、俺を必要としてくれて。それだけで、もっと頑張ってみようって思えたんだ。聖だけが、俺の救いだった。だから、謝る必要もないし、謝って欲しくもなかったかな」
「…でも、憎く思わなかったの?自分が酷い目にあってるのに俺だけ両親と一緒に過ごしてたんだよ?…母さんは別としても、父さんは聖にとっても本当の父親なんだし…」
「思わないよ。聖だって俺にとって血の繋がった家族でしょ?家族と一緒に過ごせてたのは俺も一緒」
「それは…そうかも、しれないけど」
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説


心からの愛してる
マツユキ
BL
転入生が来た事により一人になってしまった結良。仕事に追われる日々が続く中、ついに体力の限界で倒れてしまう。過労がたたり数日入院している間にリコールされてしまい、あろうことか仕事をしていなかったのは結良だと噂で学園中に広まってしまっていた。
全寮制男子校
嫌われから固定で溺愛目指して頑張ります
※話の内容は全てフィクションになります。現実世界ではありえない設定等ありますのでご了承ください

そんなの真実じゃない
イヌノカニ
BL
引きこもって四年、生きていてもしょうがないと感じた主人公は身の周りの整理し始める。自分の部屋に溢れる幼馴染との思い出を見て、どんなパソコンやスマホよりも自分の事を知っているのは幼馴染だと気付く。どうにかして彼から自分に関する記憶を消したいと思った主人公は偶然見た広告の人を意のままに操れるというお香を手に幼馴染に会いに行くが———?
彼は本当に俺の知っている彼なのだろうか。
==============
人の証言と記憶の曖昧さをテーマに書いたので、ハッキリとせずに終わります。
【BL】どうやら精霊術師として召喚されたようですが5分でクビになりましたので、最高級クラスの精霊獣と駆け落ちしようと思います。
riy
BL
風呂でまったりしている時に突如異世界へ召喚された千颯(ちはや)。
召喚されたのはいいが、本物の聖女が現れたからもう必要ないと5分も経たない内にお役御免になってしまう。
しかも元の世界へも帰れず、あろう事か風呂のお湯で流されてしまった魔法陣を描ける人物を探して直せと無茶振りされる始末。
別邸へと通されたのはいいが、いかにも出そうな趣のありすぎる館であまりの待遇の悪さに愕然とする。
そんな時に一匹のホワイトタイガーが現れ?
最高級クラスの精霊獣(人型にもなれる)×精霊術師(本人は凡人だと思ってる)
※コメディよりのラブコメ。時にシリアス。


BlueRose
雨衣
BL
学園の人気者が集まる生徒会
しかし、その会計である直紘は前髪が長くメガネをかけており、あまり目立つとは言えない容姿をしていた。
その直紘には色々なウワサがあり…?
アンチ王道気味です。
加筆&修正しました。
話思いついたら追加します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる