Pop Step

慰弦

文字の大きさ
上 下
195 / 1,142
- 13章 -

- 再会 (続) -

しおりを挟む


「どこでどうなるか、本当に分らないものだね」

「え?」

「なんでもないよ」


班乃の計らいで、今は美術準備室に2人しか居ない。

月影は先程まで自分が座ってた椅子に、安積は窓枠に腰をかけていた。

暫く沈黙が続く。

お互い何から話したら良いのか図りかねているのだろう。


「元気にやってるみたいだね」

「…うん。ひじりは?」

「元気だよ。今も絶賛お仕事中だし」

「はい?」

「ネタに詰まってね。そういう時はここに来てる。色んな人が居るし、学校って落ち着けるし…あと仕事ひと段落着いた時とかも来てるかも?」

「なにそれ、学校大好きだなw」

「あはは」

「ってかネタ詰まりって…何の仕事してんの?」

「デザイン事務所。洋服がメインだけど、結婚式場の会場作りとか色々やってるね」

「マジで!?すげー…」


…違う、そんな話がしたかったわけじゃない。

いや、近状を知りたかったのは嘘ではないが。

大きく息を吸って、安積は呼吸を整える。

ずっと言いたかったこと。頭の中で整理をして口を開きかけるが、それより先に月影が口を開いた。


「どうして俺の事が分ったの?両親は秘密にしてた筈だし、孤児院から漏れるとも考えられないし」


反射的に月影へと視線を合わせると、真っ直ぐにこっちを見ていた。

本当に不思議に思っているようだ。

『…もしかして、凄く会いたくなかったのかも?』

今まで会いたいという自分の気持ち1つで動いていたけれど、そういう事もありえるんだと今になって気がついたがもう遅いだろう。

不安を隠しながらも、月影の問いに応えるべく口を開いた。


「…中学の時にさ、授業で戸籍謄本を使ったんだよね。家計図を見てうんちゃらーって」

「そんな授業あるんだぁ。知らなかった」

「うん、俺も戸籍謄本ってなんだろうって思ったw でも授業の前の日までその事忘れてて、慌てて家に帰ったんだよね。そしたらたまたま父さんが居て、戸籍謄本が必要だって言ったら凄く困った顔してさ」

「だろうね…」

「でも、すぐ一緒に役所行こうって言ってくれたの。その時はなんでか分らなかったんだけど、その帰りに父さんが珍しく2人だけでご飯食べに行こうって…その時に聞いたんだ。昔一緒に住んでた親戚の人は、本当は腹違いの兄弟で、ひじりの母親はひじりを生んで直ぐに亡くなったってこと」

「そう…」

「でも、今どこでどうしてるかってのは教えてくれなかった。なんとか問い詰めて住んでた孤児院だけは聞けたんだよね」

せい…お前もしかして」

「ごめん。その孤児院の場所調べて行っちゃった。でもさ、院長も先生達もなんも教えてくれなかった。…まぁ、当たりまえなんだけど。でも諦めきれなくて何度も通ってる内に先生の一人が、聖《ひじり》が通ってた高校だけ教えてくれたんだよね」

「……その先生って、もしかして咲って名前?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

私の事を調べないで!

さつき
BL
生徒会の副会長としての姿と 桜華の白龍としての姿をもつ 咲夜 バレないように過ごすが 転校生が来てから騒がしくなり みんなが私の事を調べだして… 表紙イラストは みそかさんの「みそかのメーカー2」で作成してお借りしています↓ https://picrew.me/image_maker/625951

初恋はおしまい

佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。 高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。 ※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。 今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。

チャラ男会計目指しました

岬ゆづ
BL
編入試験の時に出会った、あの人のタイプの人になれるように………… ――――――それを目指して1年3ヶ月 英華学園に高等部から編入した齋木 葵《サイキ アオイ 》は念願のチャラ男会計になれた 意中の相手に好きになってもらうためにチャラ男会計を目指した素は真面目で素直な主人公が王道学園でがんばる話です。 ※この小説はBL小説です。 苦手な方は見ないようにお願いします。 ※コメントでの誹謗中傷はお控えください。 初執筆初投稿のため、至らない点が多いと思いますが、よろしくお願いします。 他サイトにも掲載しています。

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

処理中です...