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- 13章 -
- 記憶 -
しおりを挟む誤解がないように言うが、俺は弟も父も大好きだった。
他から見れば父は最低な父親かもしれないが、父は父であり戦友のようなものだったし、祐子さんが居ない時は秘密だよと言って弟と俺と3人で遊ぶ事もあった。
そんな生活が終わったのは、俺が12歳の時。
限界を感じ初めていたその頃、父も同じように限界を感じていたのだろう。
父からもう一度施設に行かないかと打診があった。
誰にとっても俺は完全にここには居てはいけない存在になっていたし、その申し出を断る理由はなかった。
今までも何度か児童福祉の人が家に様子を見にきたりはしたが、その都度俺は嘘を並べ祐子さんは上手く偽りばれないようにしてきた。
けれど今回はそういったことが出来ないよう父が秘密裏に連絡をいれ、母の行いの証拠が取れるようにし来てもらったのだ。
勿論俺も、大切なものを切り捨てる決意をし、真実を伝えると決めて。
最後の日、3人で遊んだ。
家の中だったけど、他愛無い話をして、弟と一緒にお絵かきをしたりトランプをしたり。
あの時が、血の繋がった家族と過ごした記憶で一番幸せだったと思う。
家を出るとき、弟がしがみついて離れなくて大変だった。弟はもう俺と会えなくなることを察したのだろう。思わず涙腺が緩んだことを覚えている。
そんな弟を離れさせるために、俺は提案をした。
“かくれんぼしよう”と。
俺が隠れるから目を瞑って30秒数えてと。
幼い弟にとって30秒数えるのは大変だっただろう。
素直に目をつぶると小さな指を折り、しゃくりを上げながら数を数え始める弟に駆け寄りたくかる衝動をどうにか押さえ込むと、気付かれないよう静かに背を向け、児童福祉の社員と共に家を出た。
その後再び月影孤児院に戻ると、今日までその家に戻ることはなく、弟とも会うことは1度もなかった。
どうやって会えるというのだろうか。
正直、弟の事は凄く気になったし、凄く会いたかった。
だが、弟はまだ5歳になるかならないかだったし、俺の事は覚えてないかも知れない。
もし覚えていたとしても、幼児の記憶はその後どうとでも出来る。
本当の家族と幸せに暮らす彼にとって、俺という存在はなかった事にした方が幸せに違いない。
実の母親の行いを知ってしまったら、そんな幸せな生活を壊しかねないから。
たまに電話で話す父から弟の様子を聞きかじり、幸せに暮らしていると聞く度安心したものだ。
20歳で孤児院を出る事となるが、この時に院長の弟夫婦に引き取られ、今の名前に至る。
“月影 聖”
これが、今の俺の名前。
これからもずっと、祐子さんや父や弟とは会うことはないと思っていた。
だが…
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