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- 13章 -
- 記憶 -
しおりを挟むそして、それはなにも外に限った事ではなかった。
リビングに置いてある観葉植物。そこには80代くらいのおじいさんが静かに腰を下ろしていた。
そのおじいさんはとても優しく、両親が居ない時にはお喋りをして共に時間を過ごした。
いつもは楽しく他愛ない話をするのだが、たまに思い出したように悲しげな顔で話し出す。
妻に先立たれてしまった事、息子夫婦に会いに行きたくてもここから動くことが出来ない事、誰にも気がついてもらえず、誰にも言葉が届く事もなく、いつも1人で寂しかったと、そんな話をして静かに泣く。
そんなおじいさんが可哀想で常にそばに居るようになると、そんな行動に両親が気がつかないはなかった。
誰も居ないところに向かってお喋りをする子供。
両親目にはさぞ異様に映った事だろう。
最初こそ、あまり気にした様子はなかった。きっと子供のおかしな1人遊びとして結論づけたのだろう。
けれど、それは終わりを迎えた。
おじいさんと話すようになってから2年近く経ち俺は8歳となっていた。その年祐子さんのお腹の中には新たな命が宿り、彼女の態度に変化が生じる。
流石に1人遊びとして片付けるのは、そろそろ無理が生じてきたのだろう。
だんだんと、彼女の態度が冷たくなっていった。
そこには誰も居ない。
変な事しないで
いい加減にして、気味の悪い子。
私の言うことが聞けないの?
本当の子供じゃないくせに迷惑ばっかり
育ててやってるのに、生意気よ
何度言えば分かるの?頭の悪い馬鹿な子ね
もう嫌。
気持ち悪い、近寄らないで。
日々増えていく冷たい言動。
それでも、おじいさんは悲しいと泣くから。
このおじいさんは自分以外の人には見えていないというのが分っていたから。
自分が無視してしまったら、このおじいさんはまた1人になってしまう。
そして事件は起きる。
妊娠4ヶ月目。
悪阻が酷く、顔色も良くない。
そのせいでイライラが募っていたのだろう。
いつもの様に小学校から帰ると夕飯の支度をしている祐子さんを背に、おじいさんと今日あった出来事を話して居た。
その時。
祐子さんが静かに近づき背後へと立つ。
おじいさんは異様な程にこやかで。
俺は祐子さんには気がつかずに。
その手には、包丁が握られていた事すらも…
その時のことで覚えているのは
お腹の熱さと
おじいさんの満面の笑み
祐子さんが何か喚き散らしているが
その声はだんだんと小さくなり、視界も悪くなる。
そんな中でも、はっきりと聞こえた声。
いつも楽しくお喋りをしていたおじいさんのー
「一緒にいこう」
と言う、初めて聞く程の
嬉しそうな声だった。
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