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- 13章 -
- 記憶 -
しおりを挟むだって…
慌てて幼稚園の鞄から一枚の写真を取り出した。
父から貰った、母の、エリシアの唯一の写真。
母親が居なくて寂しくなかったわけじゃない。けれどこの時には、いつまで待っていたって母に会えないことは分っていた。
あんなに大事そうに母の話をしていた父。
自分もそんな父の話を聞いて、母のことが大好きだった。
会ったことはないけど、この人が、この人だけが自分のお母さんなんだ。
そう思っていた自分にとっては、今日の父の言葉が胸に刺さった。
どうして、あんなに大事にしていたのに、違う人を新しいお母さんなんて呼ぶの?
「…ひーのおかあさんはエリシアだけだよ!? なんでおかあさんが2人も必要なのっ!?」
本心だった。
父が母を忘れてしまったようで悲しかった。
でもそれ以上に悲しかったのは、俺のそんな言葉を聴いて辛そうに顔をゆがめる父の姿だった…。
それ以降何も言えなくなって、結局父は再婚。
新しく出来た母はとても優しそうな人で、それは外見だけではなかった。
新しい母の名前は、安積祐子。
やっぱり新しい母親を直ぐに受け入れる事は難しくて、なかなか話す事も出来なかったし、寂しい時はいつもエリシアの写真を握り締めて絶えた。
そんな姿を見るのは、祐子にとってはかなり辛かっただろう。
それでも一言も文句や弱音を言う事無く、根気強く俺と向き合ってくれた。
そんな祐子さんに心を開く事が出来たのは、多分小学生に上がる頃。
6歳くらい、だろうか?
その頃には一緒に買い物に行ったり、父と3人で遊びに行ったり、何処からどう見ても普通の家族になっていたと思う。
しかしほぼ同時期。
自分におかしな力がつき始めた。
道を歩いている時、毎日同じ場所に居るお兄さん。
横断歩道の真ん中で座り込んでいるおばあさん。
血まみれで虚空を見上げている叔父さん。
でも、誰も救急車を呼ぼうとする人は居ない。
目が合えば笑ってくれる人。
話相手になってくれる人。
その時は、その人たちが既にこの世に居る人ではないという事は理解出来ていなかった。
だって、確かにそこに“居る”のだから。
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