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- 12章 -
- 本番と本心 -
しおりを挟む「…ずっと避けられたままでいるのも嫌だったし、告白した時はちゃんと答えも聞かないまま逃げちゃったからさ。合唱際終わったらもう1回ちゃんと話をして、良く転んでも悪く転んでもはっきりさせようって思って」
「…でも、今日は学君が貴方を連れて行ったって聞きましたが…」
「そうそう。めっちゃ吃驚した。確実に嫌われてるって思ってたから、すっごく身構えてたんだけど…嫌われては、なかったみたい」
「……良かったですね」
「うん。俺の気持ちにはなんとなく気がついてたけど、気持ち悪いとは思わなかったって言われてさ」
「へぇ…綾雪にとっては願ったり叶ったりですけど…同性に好きだと言われて嫌悪しないなんて、奇跡ですね」
「ね。俺もそう思う。…でも、同じ気持ちは返せないて言われちゃた」
「…そうですか」
と言うことは、恋人としてお付き合いすることは出来ないけれど、友達としてのお付き合いは続けていきましょう、と言う所に話が落ち着いたということだろう。
恋心が叶わなかったのは残念な事だが、しかし当の植野はあまり落ち込んでいる様子はない。
『他にも、なにか…』
「でもね、一緒に居て欲しいって言われたのっ!」
「はい?」
「俺の声が聞けなくなるのは嫌だって、色々な声をもっとずっと側で聞いていたいってっ!」
「…はぁ?」
「今はまだ上手く言えないけど、家族や会長とかせーちゃんを好きっていう気持ちと、俺を好きだっていう気持ちは違うんだって。それでも良ければ、一緒に居たいって」
「そうですか…でもそれ、僕思うんですけど」
「ぅん?」
「それってもう、好きですよね。…恋愛的に」
「うん、俺もそう思うっw」
隣でそう語る植野は、なんとも幸せそうな顔をしている。それもそうだ。嫌われたと思っていた所からそんな希望のある言葉を言われたのなら、もう後は時間の問題のようなものだ。
植野に落ちんだ様子がないのも頷ける。
『…結果を聞くつもりが、なんだか惚気話を聞いただけのような気がしますね』
そんな事を思いながらも嬉しそうな植野や鈴橋の様子を思い出すと、自分の事の様に嬉しくなってしまうのは隠しようがない。ぎくしゃくしていた様子に植野の背中を押した責任も感じていたし、班乃自身も肩の荷が降りたような気がした。
『あとは放っといても上手くいくでしょう』
そろそろ自分も部活へ向かわないとと鞄を持ち立ち上がりかけるが、念のため今後についての確認をともう一度席に着く。
「それで、これから貴方達はどうするんですか? 僕は今まで通りで居て良いんですかね?」
「うん。…がっくんの好きが何か分かるまで待つよって言ってあるし…」
「あるし?」
「学馬鹿だから、何年でも待つよって言ったらね」
「えぇ」
「ずっと馬鹿でいろよって…!」
時が止まるというのはこういう事を言うのだろう。
聞いてる方が恥ずかしくなるような甘々な会話に若干腹も立つが、無理やり笑顔を作ってなんとか時間を動かすと今度こそ班乃は立ち上がった。
「良かったですね。頑張ってください」
「うん!」
溜め息を残し班乃が教室から出たあと、植野は教室の窓を開け放った。吹き込む風に遊ばれ目に入りそうになる髪を手で押さえると、体を通りすぎる風の冷たさに微かに体が震える。順調に季節は冬へと向かっていっているようだ。
それでも、今はそんな風すらも愛おしく思える。
「よっし!!」
緩みっぱなしの頬を叩き気合いをいれると、幸せいっぱいの胸に限界まで空気を取り込み、溢れ出しそうになる気持ちを乗せて植野もグラウンドへと走り出した。
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