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- 12章 -
- 本番まであと少し -
しおりを挟む「じゃぁ、昼休み終わっちゃうし、残り急いでやっちゃうか!」
「あっ、そうですね。俺水持ってきます」
「りょー!」
鈴橋を見送ると水やりを再開し、待つ間も歌を口ずさむ冴霧が丁度植野の側まで来たその時、突如勢い良く起き上がった植野に驚きの声をあげた。
反動でジョウロの水が跳ね袖口を派手に濡らしたが、そんな事よりも目の前の人物へと意識が持っていかれる。
今にも泣き出しそうな顔で自分を見る人物に。
「えっと…どう、した?」
ラインの色が違うためブレザーを着ていれば学年は分かるのだが、生憎目の前の生徒は着ていない。同じ学年ではないのは分かるのだけれど…
なにがあったのかは分からないがもしかしたら自分がなにかしてしまったのではと、冴霧は思い付く限りの可能性を口にしてみる。
「あー…昼寝中だった? もしかして邪魔したかな?」
「…………」
「えーと…あっ、もしかして水かけたっ!?それだったらマジごめんっ!!」
「………………」
「えー……と、なんか、ごめんなさい」
『どうしよ。他になにも思い付かないっ』
なにを話しかけても反応を示さない植野に取りあえず謝罪してみたものの、植野は返事を返さないまま勢い良くベンチから降り逃げるようにしてどこかへ走り去っていった。
「えぇー……?」
「先輩? どうかしたんですか?」
「あっ、おかえり、学」
「遅くなってすいません。ボッとしてましたけど、なにかあったんですか?」
「んー…なにかあったのかなぁ?」
「え?」
「んーん、なんでもない」
「そうですか。じゃぁ、俺あっちから水やりしていきますね」
「おけっ、任せた!」
「はい、任せてください」
にっこり笑って自分に背を向けた鈴橋を見送ってから、冴霧はもう一度、植野の走り去った方向をみた。
『…泣きそうだったな、あの子。気にはなるけど、誰かも分からないし…大丈夫かなぁ』
小さなわだかまりを残しながら、同じ学校ならまた会えるかもしれないと気持ちを切り替え冴霧は花の水やりに戻っていった。
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