Pop Step

慰弦

文字の大きさ
上 下
164 / 1,150
- 12章 -

- 本番まであと少し -

しおりを挟む


「じゃぁ、昼休み終わっちゃうし、残り急いでやっちゃうか!」

「あっ、そうですね。俺水持ってきます」

「りょー!」


鈴橋を見送ると水やりを再開し、待つ間も歌を口ずさむ冴霧が丁度植野の側まで来たその時、突如勢い良く起き上がった植野に驚きの声をあげた。

反動でジョウロの水が跳ね袖口を派手に濡らしたが、そんな事よりも目の前の人物へと意識が持っていかれる。

今にも泣き出しそうな顔で自分を見る人物に。


「えっと…どう、した?」


ラインの色が違うためブレザーを着ていれば学年は分かるのだが、生憎目の前の生徒は着ていない。同じ学年ではないのは分かるのだけれど…

なにがあったのかは分からないがもしかしたら自分がなにかしてしまったのではと、冴霧は思い付く限りの可能性を口にしてみる。


「あー…昼寝中だった? もしかして邪魔したかな?」

「…………」

「えーと…あっ、もしかして水かけたっ!?それだったらマジごめんっ!!」

「………………」

「えー……と、なんか、ごめんなさい」


『どうしよ。他になにも思い付かないっ』

なにを話しかけても反応を示さない植野に取りあえず謝罪してみたものの、植野は返事を返さないまま勢い良くベンチから降り逃げるようにしてどこかへ走り去っていった。


「えぇー……?」

「先輩? どうかしたんですか?」

「あっ、おかえり、学」

「遅くなってすいません。ボッとしてましたけど、なにかあったんですか?」

「んー…なにかあったのかなぁ?」

「え?」

「んーん、なんでもない」

「そうですか。じゃぁ、俺あっちから水やりしていきますね」

「おけっ、任せた!」

「はい、任せてください」


にっこり笑って自分に背を向けた鈴橋を見送ってから、冴霧はもう一度、植野の走り去った方向をみた。

『…泣きそうだったな、あの子。気にはなるけど、誰かも分からないし…大丈夫かなぁ』

小さなわだかまりを残しながら、同じ学校ならまた会えるかもしれないと気持ちを切り替え冴霧は花の水やりに戻っていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

愉快な生活

白鳩 唯斗
BL
王道学園で風紀副委員長を務める主人公のお話。

そんなの真実じゃない

イヌノカニ
BL
引きこもって四年、生きていてもしょうがないと感じた主人公は身の周りの整理し始める。自分の部屋に溢れる幼馴染との思い出を見て、どんなパソコンやスマホよりも自分の事を知っているのは幼馴染だと気付く。どうにかして彼から自分に関する記憶を消したいと思った主人公は偶然見た広告の人を意のままに操れるというお香を手に幼馴染に会いに行くが———? 彼は本当に俺の知っている彼なのだろうか。 ============== 人の証言と記憶の曖昧さをテーマに書いたので、ハッキリとせずに終わります。

【BL】どうやら精霊術師として召喚されたようですが5分でクビになりましたので、最高級クラスの精霊獣と駆け落ちしようと思います。

riy
BL
風呂でまったりしている時に突如異世界へ召喚された千颯(ちはや)。 召喚されたのはいいが、本物の聖女が現れたからもう必要ないと5分も経たない内にお役御免になってしまう。 しかも元の世界へも帰れず、あろう事か風呂のお湯で流されてしまった魔法陣を描ける人物を探して直せと無茶振りされる始末。 別邸へと通されたのはいいが、いかにも出そうな趣のありすぎる館であまりの待遇の悪さに愕然とする。 そんな時に一匹のホワイトタイガーが現れ? 最高級クラスの精霊獣(人型にもなれる)×精霊術師(本人は凡人だと思ってる) ※コメディよりのラブコメ。時にシリアス。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

BlueRose

雨衣
BL
学園の人気者が集まる生徒会 しかし、その会計である直紘は前髪が長くメガネをかけており、あまり目立つとは言えない容姿をしていた。 その直紘には色々なウワサがあり…? アンチ王道気味です。 加筆&修正しました。 話思いついたら追加します。

帰宅

pAp1Ko
BL
遊んでばかりいた養子の長男と実子の双子の次男たち。 双子を庇い、拐われた長男のその後のおはなし。 書きたいところだけ書いた。作者が読みたいだけです。

処理中です...