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- 12章 -
- 本番まであと少し -
しおりを挟む「ねっ、ねぇちょっとっ!今完璧じゃなかったっ!?」
昼休みの屋上。
班乃は生徒会の仕事、植野は部活の打ち合わせで昼食を平らげた後直ぐに各々の場所へと向かってしまった為、珍しくこの日は安積と鈴橋の2人だけで過ごしていた。
昼食を食べ終わった2人は目前に迫った合唱際に向けて猛練習(安積の)真っ只中であり、ずっと音の取れなかった部分を1通り狂わず歌えた安積は定着しつつある “ 合唱際の師 ” の鈴橋へとあふれんばかりの笑顔と共に訊ねた…のだが。
「………」
「…あれ?」
「……………」
「あの、がっくん?」
「…………………」
The無反応。
軽く顔を覗き込んでみてたがどうやらその視界の中には入れてもらえていないようで、鈴橋は何もない快晴の空をただただぼんやりと眺めている。
もう1度小さく名前を呼んでみたが、やはり鈴橋の耳には届いていないようだ。
「うーん…?」
『やっぱ、変だよなぁ…最近』
最近、だと思う。鈴橋のこうした心ここに在らずな状態が見受けられるようになったのは。そしてその回数は日毎増えているようにも感じた。
『何か悩み事? でも、何だろう…この違和感』
その違和感の正体を探るべく鈴橋を真剣に見つめる。
その間も、相変わらず鈴橋は空を見つめていた。
『…なんです?あの安積が片思いしてるような構図は』
そして屋上の入り口で思わず足を止め、そんな2人の姿に声をかけるのを躊躇っていたのは生徒会の仕事を終わらせ戻ってきた班乃だった。
それほどまでに鈴橋を心配する安積の視線は一直線に注がれており、2人の温度差に心中噴出しそうになりながらも残り少ない昼休みを一緒にする為班乃は2人へと足を進めた。
「なにしてるんですか?」
「ぅわっ! あ、あっきー!?なんだよもうっ!びっくりしたなぁ!!お疲れおかえりっ!」
「ありがとうございます、ただいま戻りました」
気づかれないよう静かに安積の背後に回り両肩にぽんっと手を乗せて話しかければ、予想通りの反応が返され班乃は満足そうににっこりと笑みを作った。
「なにやら熱心に学君を眺めてらっしゃったので」
「え? あぁ、うん。がっくんがさ、なんか変なんだよねぇ」
「変、ですか?」
ついっと視線を鈴橋に向けてみるが、いつも通り空を眺めている。天気も良いし、きっと花壇に水を、とでも考えているのだろう。
「なにが変なんです?」
「うん…ちょっとさ、がっくんに話しかけてみてよ」
「え?」
なにがなんだか分からないとでも言いたげな班乃に、“ いいから ” と視線で促す。腑に落ちない表情を浮かべながらも、班乃は鈴橋に向き直った。
「…学君、今日は天気もいいですしー」
「ですよね、水あげにいった方が良いですよね。じゃぁ、俺先に行きます」
「えぇ、じゃぁまた後で」
「はい」
短い会話の後、鈴橋は安積に目を向ける事無く屋上を後にした。
「…えーと?」
「…おかしいっ!!さっき話しかけてもうんともすんとも言わなかったのに!? なんでっ!?」
「さぁ…?」
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