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- 11章 -
- おたまじゃくしにしか見えない -
しおりを挟む喋らせる間も与えない程捲し立ててからの、いきなりの待った発言。
牽制するように植野に手を突き出したまま再びうつむき、暫し時が止まったかのように固まっていたが、やがてゆっくりと手を下ろし数歩後ずさった。
「どうしたの?がっくん」
しかしその問いかけは届いてすらいないのかもしれない。口に手をあた鈴橋は答える事なくおどおどと視線を泳がせ、心なしか顔が紅潮している気がする。
『……なにこれっ、面白いっw』
楽しんでいる場合ではないことは分かっているが、こんな滅多に見られない鈴橋の一人百面相を見せられては、そう思ってしまうのもしょうがないだろう。
「……悪い」
そして、長い沈黙を破った口から出たその言葉は謝罪の意だった。
「ん? なにが?」
「俺、なにやってんだろう…」
「なにって?」
「…俺今、かなりわがまま言ったな」
「わがっ!?えっ!?なに?なんの事!?」
『脈絡、どこ行った…!?』
今この会話で謝るほどの我侭はあっただろうか?
脳内でその “ 迷惑 ” を探してみるが、見つかる前に鈴橋が答えを口にした。
「誰にだって聞かれたくない事なんてあるよな。それを無理やり…言えとか、力になりたいとか…今のは俺の自己満足だった」
深いため息をつくその姿は、なにか大きな過ちを犯してしまったかのように青ざめている。赤くなったり青くなったり大忙しだ。
それはさておき
迷惑の意味は無事知ることが出来た。
けれど、そんなことー
「…帰るっ」
すばやく後ろ向け後ろをした鈴橋は自宅玄関へと続く短い階段に足をかけるが、そんな鈴橋を今度は植野が引き止めた。
「あっ、待って待って!!」
「……なにっ?」
振り返らずに言う背中。それは言葉こそ短いが、その中には照れなのか、はたまた我侭を言ったと結論付けた鈴橋なりの謝罪なのか、そんな複雑な色を含んでいる。
「ありがと、がっくん」
「…は?」
『お礼?なんの?』
急な感謝の言葉に、鈴橋の頭の中では瞬時にして大量のはてなマークが飛び交う。
やらかしをしてしまったのは自分であり、お礼を言われる意味が分からないと振り返えった鈴橋が目にしたのは、なぜか泣きそうな顔をして笑っている植野の姿だった。
「心配、してくれて嬉しい。我侭なんかじゃないよ。今、すっごく嬉しい。…ちゃんと俺を見てくれてて、ちゃんと俺が落ち込んでるの気づいてくれて、気にかけてくれて」
「・・・・・・」
「がっくんは、ちゃんと分かってくれるじゃん。気持ち汲み取るのが下手とか、そんなの全然ない」
「植野…」
「ただ、鈍感ではあるけど」
「…どっちだよ」
褒められているのか、落とされているのか分からない。そんな物言いも鈴橋自身自覚があるのでなにも言い返せない。
体半分だけで振り向いている鈴橋の肩を少しだけ押した植野は、自分に真正面から向かい合わせた。
きょとんとしている鈴橋を見ていると、なんだか微笑ましくなってしまう。
『もう、いいや。悩んだってしょうがない』
悩んでも答えが出ないなら、そこで停滞しているうちは何も起こらない。
この状況を打破するには、何かしらの行動を起こさない事にはどうにもならない。
どうにでもなれとか、そんな投げやりな気持ちではないが、とにかく前に進みたい。
この気持ちを伝えたい。
その後の事なんて、どうにでも出来る。
…少し怖いけど。
植野は意を決したように口を開いた。
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