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慰弦

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- 11章 -

- おたまじゃくしにしか見えない -

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「がっくん?」


頭一つ分は低い位置にある鈴橋。その表情は俯いていて分からない。ただ、自分の腕を掴む手は指が白くなるほど力が入っており、その肩が微かに震えている。

『怒ってる…?』


「なんなんだよ…お前を嫌いになるとか…」


搾り出すように言った言葉は掠れていて、植野に対しての発言なのか、自分に対しての発言なのかあやふやで…そして再び沈黙が訪れる。

掴まれている腕は正直痛い。なにを言おうとしているのかも、少し怖い。けれど、鈴橋の次の言葉を待つためにその手を外す事はしなかった。

誰かが落ち込んだ時には一生懸命にかける言葉を捜す。不器用で、慎重で、だからこそ時間がかかる。

そうして発せられた言葉は決して上手い言葉ではなくても、いつもそこには暖かい心が込められている。

『あぁ…やっぱ、俺がっくんが好きだなぁ』

場違いにそんな事を考えていると、今まで俯いていた鈴橋が勢い良く顔を上げる。


「俺はっ! そんなに頼りないかっ!?」

「…は?」


なにがどうなってこうなった?一体鈴橋の中でどういう流れでこの言葉が出たのだろうか?

懸命になり過ぎた結果、たまに脳内完結させてから話すものだから、さすがの植野もその真意を測りかねてしまう。


「あのー」

「確かにっ、俺はさっきも言ったけど、お前や安積や会長…っというか、普通の人より相手の気持ちとか汲み取るの下手だよっ!」

「えーと…なn」

「だから、聞いたところで俺は上手い答えなんて出せないかもしれないっ、でもっ」

「がっくn」

「でもっ、お前が、とっ…友達が落ち込んでんなら力になりたいって思ったって良いだろっ!?」

「とも、だち…」


『友達…そうか、友達。そう、だよな…』

嬉しい筈の懸命な言葉に紛れ込んでいたのは鋭利なトゲだ。そのトゲが全てを持っていき真意を探す思考を足止めさせるが、自分を思って話してくれている鈴橋に悪いと、なんとか再び足を進める事に意識を集中させていく。


「ち、違うのかよ!?だからっ、なにかあったんなら話せっ。悩んでるんなら聞かせろっ!!」

「あっ、あのさ、がっくー」

「待ったっ!!!」


『…もうっ、なんですか、一体…』
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