154 / 1,142
- 11章 -
- おたまじゃくしにしか見えない -
しおりを挟む「俺も、お前の事は好意に思ってるよ」
「…そう」
そして再び言葉を噤む。
そんないつもと違う植野の雰囲気に戸惑う。
どんな対応をすれば良いかなど今の鈴橋に分かる筈もなく、ただ心に浮かんだのは “ 怖い ” という3文字だった。
「…俺は帰るけど、お前はどうする?」
「ー…っ、うん、ごめん、俺も帰るよ」
何とかこの状況を変えようと当初の目的通り帰りを促す。何かを言いかけたような植野だったがそれは言葉になる事無く飲み込まれていき、ただ寂しげな笑顔だけが向けられただけだった。
その後、なにも会話もないまま歩みを進め、まもなく鈴橋家へと着こうとしている。
このまま、いつも通り別れの挨拶をして…
でも、このままじゃいけない気がする。
このまま分かれてしまったら、今後もずっと蟠りが残ってしまいそうで。
少し前を歩く植野の腕を、今度は鈴橋が掴み止めた。
「がっくん?」
「あ…いや。えと…」
咄嗟に引き止めたまでは良かったが、感情だけが先急いでしまい言葉の準備が出来ていない。それでもなんとか言わなければと、思い付くままに口を動かした。
「さっき、なにか言いかけてただろ?…俺は、お前ほど他の人の、その、言いたい事とか分からないし…ちゃんと言ってくれないと分からないから…」
「…がっくん」
「なにか言いたいことがあるならちゃんと言って欲しい。…このままスッキリしないままお前と居るなんて気持ち悪いし…多分、お互いに」
『うまく、言えているだろうか…』
鈴橋にとって植野が抱えている気持ちを知りなにか起こるかもしれないという事よりも、わだかまりを抱えたまま過ごすほうが絶えがたかった。
「…だからさ」
「でも、言ったらきっと…俺の事嫌になるから。がっくんと、がっくんの家族と一緒に居るのも、保育園の手伝いも出来なくなるかもしれない」
「……嫌いにって」
「それは嫌だから、ごめんね。明日には…ちょっと、あれだ。気持ち切り替えるからさ…ね、じゃぁ、俺帰るね」
一方的にしゃべり切ると返事を待つこともなく、にこりと笑い鈴橋家から遠ざかろうと踵を返す。そのまま見送ればその言葉通り、明日からはいつも通りの日常が送られるはずだ。
けれど、それは上部だけのものなのは火を見るより明らかだ。
「待てよっ!」
鈴橋は再び植野を追いかけ、今度は腕を掴んで自分に向き合わせる。上部だけの付き合いだと思ってしまった時点で、いつも通りの日常なんて送れる筈がないのだ。
それになにを秘密としているのかは分からないが、嫌いになると勝手に自分の気持ちを決めつけられるのは些か、いや、かなり腹立たしい。
「がっくん…」
「そんなのお前が決めることじゃないだろっ」
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。


塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。
私の事を調べないで!
さつき
BL
生徒会の副会長としての姿と
桜華の白龍としての姿をもつ
咲夜 バレないように過ごすが
転校生が来てから騒がしくなり
みんなが私の事を調べだして…
表紙イラストは みそかさんの「みそかのメーカー2」で作成してお借りしています↓
https://picrew.me/image_maker/625951

初恋はおしまい
佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。
高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。
※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。
今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。

チャラ男会計目指しました
岬ゆづ
BL
編入試験の時に出会った、あの人のタイプの人になれるように…………
――――――それを目指して1年3ヶ月
英華学園に高等部から編入した齋木 葵《サイキ アオイ 》は念願のチャラ男会計になれた
意中の相手に好きになってもらうためにチャラ男会計を目指した素は真面目で素直な主人公が王道学園でがんばる話です。
※この小説はBL小説です。
苦手な方は見ないようにお願いします。
※コメントでの誹謗中傷はお控えください。
初執筆初投稿のため、至らない点が多いと思いますが、よろしくお願いします。
他サイトにも掲載しています。
美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした
亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。
カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。
(悪役モブ♀が出てきます)
(他サイトに2021年〜掲載済)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる