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慰弦

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- 11章 -

- おたまじゃくしにしか見えない -

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「俺も、お前の事は好意に思ってるよ」

「…そう」


そして再び言葉を噤む。
そんないつもと違う植野の雰囲気に戸惑う。

どんな対応をすれば良いかなど今の鈴橋に分かる筈もなく、ただ心に浮かんだのは “ 怖い ” という3文字だった。


「…俺は帰るけど、お前はどうする?」

「ー…っ、うん、ごめん、俺も帰るよ」


何とかこの状況を変えようと当初の目的通り帰りを促す。何かを言いかけたような植野だったがそれは言葉になる事無く飲み込まれていき、ただ寂しげな笑顔だけが向けられただけだった。

その後、なにも会話もないまま歩みを進め、まもなく鈴橋家へと着こうとしている。

このまま、いつも通り別れの挨拶をして…

でも、このままじゃいけない気がする。
このまま分かれてしまったら、今後もずっと蟠りが残ってしまいそうで。

少し前を歩く植野の腕を、今度は鈴橋が掴み止めた。


「がっくん?」

「あ…いや。えと…」


咄嗟に引き止めたまでは良かったが、感情だけが先急いでしまい言葉の準備が出来ていない。それでもなんとか言わなければと、思い付くままに口を動かした。


「さっき、なにか言いかけてただろ?…俺は、お前ほど他の人の、その、言いたい事とか分からないし…ちゃんと言ってくれないと分からないから…」

「…がっくん」

「なにか言いたいことがあるならちゃんと言って欲しい。…このままスッキリしないままお前と居るなんて気持ち悪いし…多分、お互いに」


『うまく、言えているだろうか…』

鈴橋にとって植野が抱えている気持ちを知りなにか起こるかもしれないという事よりも、わだかまりを抱えたまま過ごすほうが絶えがたかった。


「…だからさ」

「でも、言ったらきっと…俺の事嫌になるから。がっくんと、がっくんの家族と一緒に居るのも、保育園の手伝いも出来なくなるかもしれない」

「……嫌いにって」

「それは嫌だから、ごめんね。明日には…ちょっと、あれだ。気持ち切り替えるからさ…ね、じゃぁ、俺帰るね」


一方的にしゃべり切ると返事を待つこともなく、にこりと笑い鈴橋家から遠ざかろうと踵を返す。そのまま見送ればその言葉通り、明日からはいつも通りの日常が送られるはずだ。

けれど、それは上部だけのものなのは火を見るより明らかだ。


「待てよっ!」


鈴橋は再び植野を追いかけ、今度は腕を掴んで自分に向き合わせる。上部だけの付き合いだと思ってしまった時点で、いつも通りの日常なんて送れる筈がないのだ。

それになにを秘密としているのかは分からないが、嫌いになると勝手に自分の気持ちを決めつけられるのは些か、いや、かなり腹立たしい。


「がっくん…」

「そんなのお前が決めることじゃないだろっ」
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