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- 11章 -
- おたまじゃくしにしか見えない -
しおりを挟む『まぁ…気持ちは分からないでもないですけど…』
半ば呆れながら、ここはさっさと帰るに限ると両手を打ち鳴らした。
「さて。そういうことなので、今日は帰りましょう。行きましょ?安積」
「うん…本当ごめんね、がっくん」
「もう良いって。気をつけて帰れよ」
「…うん!!また明日!」
元気良く手を振る安積達を完全に見えなくなるまで見送ると、自分達も帰ろうと…するのだが…。
「植野」
「あっ、なに?」
「いつまで握ってんだよ」
「…あっ!」
「心配しすぎだ。ほら、俺達も帰るぞ」
どうやらずっと手を握ってしまっていたらしい。手を握ったことに下心がまったくなかったとは言わないが、ずっと握って居たのは本当に無意識だった。
急激に熱が上がり慌てて離すが、そんな植野の様子を気にすることもなく鈴橋は我先にとバス停へと向かっていく。
「あっ!」
そんな後ろ姿を慌てて追い薄い肩を掴み止めると、思いの外力を入れすぎてしまったようで鈴橋は眉間にしわを寄せて振り返った。
「痛っ……なに?」
「ゃ…えっと…ごめん、その…」
掴んだ手のせいで乱れたシャツからは、色素の薄い肌と綺麗に浮き上がった鎖骨が覗いている。 無意識のうちに喉がなり、その音で我に返った植野は、ぱっとその手を放した。
「ごめん…」
「…別にそんな謝らなくても。なんか用か?」
「いや、用とか…そんなんじゃないけど…」
「…変な奴」
いぶかしげに植野を一瞥した鈴橋だったが、特に気に止める事はなく再びバス停へと足を進める。
そんな後ろ姿をぼんやりと眺めながら後に続く。
背筋の伸びた歩き方。
時折のぞく首筋。
風にのって靡く髪。
すべてが愛おしい。
好きで好きで堪らない。
だからこそ、握った手になんの反応も示されなかったことが、照れるでもなく、嫌がるわけでもなく、本当に兄弟と手を繋ぐくらいの認識しか持たれてないことが著しく見えてしまった気がして…
それが焦りを生じさせた。
「俺さ、がっくんの事好きだよ」
「……なんだよ、いきなり?」
「いきなりって分けじゃないんだけど…」
「……まぁ、ありがたいことではあるけど」
「うん…」
人通りも少ない帰路の途中、2人は足を止め向かいあっていた。緩やかな夕日が照らしている中で、それきり言葉もなく沈黙が流れる。
『なん、だよ、急に。……好きって』
わざわざ引き留めてまで発した植野の言葉に、胸がざわつき縫い付けられたように視線が離せなくなり、喉までもが渇く。
“ 好き ”
自分が好きな人。
両親に妹、口には出さないが、安積や班乃、勿論植野のことだって嫌いじゃない。
『そういう事、なんだよな?』
…そういう事。
鈴橋の脳裏に急速に思い出されたのは、息遣いが感じられるほど近くに感じたあの夜の事だ。
“ こんなの、フェアじゃないよな ”
“ ごめんね、がっくん。お休み ”
寝ている鈴橋へとかけられた言葉。
『でも、それは誤解だって分かったじゃないか…』
なら、今植野が口にした “ 好き ” は、自分が家族や友達を好きだと思う気持ちと一緒な筈で。
なら、嬉しいことだ。
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