Pop Step

慰弦

文字の大きさ
上 下
151 / 1,142
- 11章 -

- おたまじゃくしにしか見えない -

しおりを挟む


楽譜の読み方のみならず基本から教えてほしいという安積の要望に応え、立ち姿勢や口の開け方から教わっていた最中の事故。

しかし多少指が赤くなってはいるものの大事には至ってないようだ。

ホッと胸を撫で下ろすが問題はそれだけではない。後ろを振り返れば未だに妄想に旅立っている植野の姿があった。

『どうしたものか…』

そろそろ戻って来てもらわなければ自分の分までもが悲しいアイスと化してしまうと、今一度安積達の様子を確認する。


「今度から絶対手伝わないっ」

「うぅ…ごめんがっくん…。痛かったよね?大丈夫?怪我、してない? 消毒液とかいる?ぁっ、必要なら絆創膏もあるよ?」

「……いや、いい。要らない、大丈夫」

「ホントに?」

「本当に。…それより、基礎覚えたところで歌覚えてないと話にもならないぞ。ちゃんと覚えたのか?」

「…つもり」

「つもり…か」


糖分補給して頭が落ち着いたのもあるだろうが、こうもしかられた子犬みたいに素直に謝られて心配されたら怒るに怒れないのだろう。

『学君が子供好きで良かったですね、安積。さて、じゃぁ次はー』

無事2人の仲直りを見届け、未だ立ち止まったままの植野へと歩みを戻した班乃の飽きれ眼の先では、溶けたアイスが見事植野の指にこんにちはしていた。


「…全く」


直ぐ横に立ったと言うのに、植野は班乃の存在に気がつかない。

どうやら、ただの屍の…

じゃなくて、相当深くまで思考に入り込んでいるらしい。


「綾雪、アイス垂れてますよ」

「………」

「綾雪ー?」

「…………」

「……………」


『そうですか。そんなにお望みなら…』

呼び掛けにも全く気がつかない植野にちょっとだけ顔を出した苛立ちも、それ以上に顔を出した悪戯心がかき消していった。

そっと身を屈めアイスを持ったままの植野の手に顔を近づける。

そしてー


「ーっ!!? かかっ、会長!?」

「…なにをそんなに慌ててるんです?」

「えっ、えぇっ!? いっ、今っ、えっ!?」

「はい?」

「…ちっ、チュー、した?」

「さぁ?どうだと思います?」


どうやら悪戯心が功をなしたようだ。
漸くこちら側へと戻ってきた植野は自分の指を汚すアイスと班乃を交互に見比べ、顔を紅潮させながら口をパクパクとしている。

『あれ、意外と純情?』

予想以上の慌てふためきっぷりにちょっと可愛そうになり直ぐ様植野へとピースを向けると、その手を自分の口許へと持っていき立てた2本の指をパチパチと打ち付けた。

その2本の指には微かだがアイスが付着していて…
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

初恋はおしまい

佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。 高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。 ※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。 今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

私の事を調べないで!

さつき
BL
生徒会の副会長としての姿と 桜華の白龍としての姿をもつ 咲夜 バレないように過ごすが 転校生が来てから騒がしくなり みんなが私の事を調べだして… 表紙イラストは みそかさんの「みそかのメーカー2」で作成してお借りしています↓ https://picrew.me/image_maker/625951

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

チャラ男会計目指しました

岬ゆづ
BL
編入試験の時に出会った、あの人のタイプの人になれるように………… ――――――それを目指して1年3ヶ月 英華学園に高等部から編入した齋木 葵《サイキ アオイ 》は念願のチャラ男会計になれた 意中の相手に好きになってもらうためにチャラ男会計を目指した素は真面目で素直な主人公が王道学園でがんばる話です。 ※この小説はBL小説です。 苦手な方は見ないようにお願いします。 ※コメントでの誹謗中傷はお控えください。 初執筆初投稿のため、至らない点が多いと思いますが、よろしくお願いします。 他サイトにも掲載しています。

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

処理中です...