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- 11章 -
- おたまじゃくしにしか見えない -
しおりを挟む楽譜の読み方のみならず基本から教えてほしいという安積の要望に応え、立ち姿勢や口の開け方から教わっていた最中の事故。
しかし多少指が赤くなってはいるものの大事には至ってないようだ。
ホッと胸を撫で下ろすが問題はそれだけではない。後ろを振り返れば未だに妄想に旅立っている植野の姿があった。
『どうしたものか…』
そろそろ戻って来てもらわなければ自分の分までもが悲しいアイスと化してしまうと、今一度安積達の様子を確認する。
「今度から絶対手伝わないっ」
「うぅ…ごめんがっくん…。痛かったよね?大丈夫?怪我、してない? 消毒液とかいる?ぁっ、必要なら絆創膏もあるよ?」
「……いや、いい。要らない、大丈夫」
「ホントに?」
「本当に。…それより、基礎覚えたところで歌覚えてないと話にもならないぞ。ちゃんと覚えたのか?」
「…つもり」
「つもり…か」
糖分補給して頭が落ち着いたのもあるだろうが、こうもしかられた子犬みたいに素直に謝られて心配されたら怒るに怒れないのだろう。
『学君が子供好きで良かったですね、安積。さて、じゃぁ次はー』
無事2人の仲直りを見届け、未だ立ち止まったままの植野へと歩みを戻した班乃の飽きれ眼の先では、溶けたアイスが見事植野の指にこんにちはしていた。
「…全く」
直ぐ横に立ったと言うのに、植野は班乃の存在に気がつかない。
どうやら、ただの屍の…
じゃなくて、相当深くまで思考に入り込んでいるらしい。
「綾雪、アイス垂れてますよ」
「………」
「綾雪ー?」
「…………」
「……………」
『そうですか。そんなにお望みなら…』
呼び掛けにも全く気がつかない植野にちょっとだけ顔を出した苛立ちも、それ以上に顔を出した悪戯心がかき消していった。
そっと身を屈めアイスを持ったままの植野の手に顔を近づける。
そしてー
「ーっ!!? かかっ、会長!?」
「…なにをそんなに慌ててるんです?」
「えっ、えぇっ!? いっ、今っ、えっ!?」
「はい?」
「…ちっ、チュー、した?」
「さぁ?どうだと思います?」
どうやら悪戯心が功をなしたようだ。
漸くこちら側へと戻ってきた植野は自分の指を汚すアイスと班乃を交互に見比べ、顔を紅潮させながら口をパクパクとしている。
『あれ、意外と純情?』
予想以上の慌てふためきっぷりにちょっと可愛そうになり直ぐ様植野へとピースを向けると、その手を自分の口許へと持っていき立てた2本の指をパチパチと打ち付けた。
その2本の指には微かだがアイスが付着していて…
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