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- 11章 -
- おたまじゃくしにしか見えない -
しおりを挟む時間遡ること一時間ほど。
植野は母親の働く店の裏口前に居た。
ドアノブに手をかけ、後は捻るだけ…なのだが。
その状態のまま、もうかれこれ10分は立っているのではないだろうか…
(…いつも通り挨拶して入って、最初に会った人にこの書類頼んで、さくっと出ればいいだけジャン。ね、俺?)
植野の頭の中には、ここで働く力強い女性に囲まれて死に掛けた記憶が強く刻まれている。
なんというか…怖い。
だが、いつまでもこうしているわけには行かないのは事実で…。
深呼吸し意識を確かに植野は、握ったままのドアノブに力を入れた。
「こっ、こんばん…」
「わぁーww 綾ちゃん来たぁー」
「え!? 本当?こんばんは!待ってたよっ♡」
「…あ、あの…この書類母に…」
「ねぇ、ママっ!?綾雪君にジュースあげていい?」
「もちろんよ。こんばんは、綾雪君。ゆっくりしていってね?」
「えっ、いや、俺頼まれたの持ってきただけだし、明日も学校だし、直ぐに帰りますから」
書類を持ってきただけなのになぜこうなるのか…
『飲み物を出される前に帰らないと、本当に帰れなくなるっ!』
店長に書類をぐぐっと押し付けるように渡すと、取り囲んでいる女性陣に愛想を振りまきながら、目指すは一箇所。
この店の出口。
いや、安楽への扉!!
あと数メートル。
もう直ぐ俺の安らぎが!!
ちょうどその時だった…
「あ! 綾ちゃんだっ!!書類持ってきてくれたんだ!! ありがとー♡どうせ、あんた帰ってもだらだら起きてるんだから、ゆっくりしていきなさいよ☆」
(お前はなんつータイミングで戻ってくるんだ…)
「若ちゃん、お客さん帰ったの?」
「ううん。ちょっとお手洗いって言って抜けてきたの。裏が騒がしくなったから、もしかしたら綾ちゃん来たのかなって!」
そして地獄耳である・・・
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