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- 11章 -
- おたまじゃくしにしか見えない -
しおりを挟む幸か不幸か、年若く整った顔立ちをしている班乃に声をかける人は少なくなかった。成り行きにまかせ今まで何人と夜を過ごしたのか…正直自分自身覚えていない。
別段そう言ったことに興味があったわけではなかったのだが…
ただ、楓の暖かさ。
手を繋いだ時の、ふざけてじゃれあった時の、急な雨に降られびしょ濡れになった時、寄せ合った体、言葉もなく寄り添って時間をすごしたあの時の温もりが恋しかった。
人の温もりを知らず知らずに求めていたのだろう。
そんな時、声をかけてきた内の1人が里緒だった。
綺麗な顔立ちながらも幼さの残るその顔はどこか楓を思わせるものもあり、連れられるままホテルへと向かい温もりを分かち合った。
本当は後腐れない割りきった関係を望んでいたのだが、その貌のせいだろうか。里緒とのそれは他の人とは違い、1夜限りで終わらせる事なく続いた。
例外はあれど、この町に居れば人の温もりなんていくらでも手に入る。それはとても魅力的に思えたのだ。
だけど、それが正しい事ではないのは班乃にも分かっていた。だから、里緒含め、それら全てを終わらせにきた。
辛い経験をしているにもかかわらず、真っ直ぐ前だけをみて生きる安積や月影の姿に、しっかりと清算しもう1度ちゃんと生きてみようと勇気をもらったから。
自分の為にも、楓の為にも。
手を貸してくれた2人の為にも。
「貴女には感謝してます。貴女の言うとおり僕達の行いが良い事だとはいえませんが、それでもあの時の僕には必要だったと思いますから」
「そう。ちょっと複雑だけど、そう言ってもらえて嬉しいよ。私もいつかは、“ だったっ ” て…言えると良いな」
「応援、してます」
「明のことは嫌いじゃなかったよ。…ちょっと物足りない所もあったけどねっ!」
「…それは遠まわしに下手だと?」
「“ あった ” だよ。だって私が仕込んだんだもん」
「……そうでしたね」
「「……………っ」」
どちらともなく吹き出ししんみりとした空気を冗談で笑い飛ばすと、最後に里緒へと手を伸ばす。
「今までありがとうございました。いつか貴女にも、幸せが訪れる事を祈ってます」
「ありがとう。私だっていつまでも明に負けてないんだからっ!応援、されちゃったしね!頑張るよ」
今までの自分たちとの別れのように、これから新しい道を歩いていく意思を込めるように、しっかりと手を握り合うと、里緒を残し班乃は一人ホテルを後にした。
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