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- 11章 -
- おたまじゃくしにしか見えない -
しおりを挟む「ただいまー」
誰も居ない家に取り合えず声をかけてから、植野はそのまま脱衣所へ向かう。制服をハンガーにかけ部活で汚れたジャージやユニフォームを洗濯機に突っ込み適当にまわすと、一糸纏わぬ姿でお風呂場に行き蛇口を勢い良く捻り湯船に湯を貯めはじめた。
体を洗い髪の毛を洗ってる間に丁度良くお湯がたまるだろう。
自身を洗うためシャワーを出そうとした丁度そのとき、脱衣所から着信音が鳴る。
その着信音はある人でしかならない。一瞬無視しようかと思ったが、暫く待っても鳴り止まないコールにしぶしぶと脱衣所へ舞い戻る。
一度携帯画面を眺めてから、またもしぶしぶと通話ボタンを押した。
「…ただいま、電話に出ることができません。ぴーっと言う発信音の後に、お名前とご用k」
「あ!!綾ちゃん!!良かったぁー帰ってたんだね!」
「ぴーっという発信お」
「あのね、机の上に茶色い封筒があると思うの!それお店まで持ってきてくれない?」
「…ただいま電話にd」
「いやぁ、それ今日出さなきゃいけない書類でさぁ…すっかり忘れてたのよー><。」
「…お前は人の話を聞け」
「あ、喋った時点で負けだよ綾ちゃんww」
「…あのですね、今丁度風呂入る所でして、全裸でシャワーの蛇口を捻って、一日の疲れを取ろうとしてた所なのよ」
「え、今綾ちゃん全裸なの?やだ、えっちぃw」
「…………」
「でもナイスタイミングっ!浴びる前でよかったっ!!」
「……」
抗おうとしたのがそもそもの間違いだった。適うはずがないのだ、このマイペース人間に。今までだって全戦全敗なのだから。
でもだからこそ抗いたくもなるというもので、結果敗戦数を増やす結果に終わっただけだった。
「分かったよ…いきゃいいんだろ、いきゃ」
「本当に!?綾ちゃん大好き!!お願いしまーす!」
「でもっ!こっそり裏から入ってこっそり出てくから…他の人には俺の事言うなよ!?」
「なんでよぉ!?皆可愛がってくれるし、いい人じゃなぁい!」
「俺あの圧力苦手なんだよっ…!」
夜の蝶が集まるその場所で、持ち前の明るさと姉御肌で従業員からも人気のある母。
以前、今回のように忘れ物を届けに言った時の恐怖を植野は忘れられずに居た。
強制的に待機室へと連行され綺麗に着飾った女性達に囲まれたそこは黄色い声と香水の匂いが充満する空間で、耳に鼻に精神的にとダメージを受けながら借りてきた猫状態にならざる終えなかったあの現状。
もうプチトラウマだった。
たった今脱いだばかりだと言うのに…
風呂に入ってない状態で洗濯した服を着るのも嫌だが、今しがた脱いだ服を着るのも嫌だ。
気だるい気持ちでタンスを開け、見回りの教師が居るかもしれないと地味な色の服を選び着替えると、玄関にある原付の鍵をスムーズな流れで指に引っ掛け家を出た。
そしてフルヘルという完全装備。
これで誰かに見られても自分だと分かるまい。
最近少し反抗期なエンジンを思いっきり蹴り入れると、普通の原付よりも大きな音を轟かせながら、敵地へと赴くのであった。
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