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- 11章 -
- おたまじゃくしにしか見えない -
しおりを挟む放課後、班乃と安積はいつも演劇の練習をしている公園に来ていた。しかしその手には台本でなく楽譜が持たれている。
「今のところ、違いますよ。ここに休符があってスラーですので、ここはー…タタ、ウン、ターンタタ、です」
隣に座る安積の膝上を指で叩いてリズムを取って教える班乃の顔には若干疲労の色が見えていた。
「なるほど分かった!こうねっ!」
といって歌う安積のリズムは全くなっていなかった。
「…なるほど、分かりました。僕には教える才能がないみたいです。ありがとうございます安積。自分の欠点に気づけました…」
「……ごめんあっきー」
すでに9月。風は秋の色に染まりつつあり、気持ち良く2人の髪を揺らしている。
そして、この疲労感も一緒に流してくれればいいのにと、ひっそりと思うのであった。
溜め息をかみ殺し横を見ると、安積がなんとも申し訳なさそうな顔をしており良心が少し痛む。
まるで子供を見ているようだ。
「同い年なのに…」
「ん?」
「いえ、なんでもないです」
不思議そうに覗き込まれたその顔すら幼く見え、怒る気にもならない。むしろ自分が悪い気にもなる。
「まぁ、あれですよ。綾雪が言っていたように、聞いてれば覚えられると思います」
「そうかなぁ…」
「いつもの前向きさはどうしたんです?大丈夫、劇の台本だってちゃんと覚えてるじゃないですか」
「んー…うん。そうだよな、落ち込んでちゃ出来るもんも出来なくなるし! よっし、今日は一日中この曲聴いてよ!」
猪突猛進タイプ
短期間集中型タイプ
とりあえず、やってみようタイプ…?
なんかどれもしっくりこないが、がむしゃらに努力出来るのは良いことだろう。
ともあれ、元気の出た安積に思いのほかホッとする自分の心境に内心苦笑しながら、公園の時計を見る。
「そろそろ帰りましょうか?もう20時近いですし」
「あれ?もうそんな時間?」
「もうそんな時間です」
「うわっ!まじごめんっ、遅くまでつき合わせちゃって!」
「全然構いませんよ。気にしないでください。では僕はこれから少し用事がありますのでここで」
「用事っ!?やっ、ほんっとごめんっ、言ってくれればいいのにっ!」
「気つかいすぎですって。駄目なら駄目でちゃんと言いますから、大丈夫ですよ」
「……そう?」
「えぇ。じゃぁ、夜も遅いので気をつけて帰ってくださいね?」
鞄を肩にかけ立ち上がると、座ったまま申し訳なさそうに自分を見上げる安積の頭を2回ほど軽く叩いてから公園出口へと向かう。
「ありがとあっきー!あっきーも気を付け帰ってね!また月曜日!」
後ろから聞こえる元気な声に片手で答えると、重い足取りで自分の “ 用事 ” へと足を向けた。
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