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- 11章 -
- おたまじゃくしにしか見えない -
しおりを挟む「…大丈夫、会長が優しく教えてくれるよ」
「いや、ここからなら綾雪が適任じゃないですか?子供の扱い上手ですし」
「いや、俺よりがっくんのが適任だと思う。ピアノも弾けるし、完全楽器とか最強じゃん」
「…今からじゃ本番に間に合う気がしないけど」
「ちょっと、物凄く失礼な話してないっ!?」
「気じゃないですよ」
「お前、よく今までそれでやってこれたな」
「ちょっ!?」
班乃と鈴橋の冷ややかさと哀れみをこめた視線が安積に降り注ぐ。安積からしてみれば、吹部に入っていたわけでもなくテストもない音楽記号を覚えている方が不思議でしょうがない。
『…普通、覚えてるもんなのかな』
自分の不出来さにしょんぼりする安積だったが、唐突に頭を捕まれわしゃわしゃとかき乱されパッと顔をあげると、植野が柔らかな笑顔を浮かべていた。
「気にしない気にしないっ!大丈夫っ!感覚で覚えればいいじゃん!耳で聞いて覚えるの!せーちゃんそっちのが得意でしょ!」
「あっ!感覚で覚えるのは得意っ!!」
「そうそう!やり方なんて1つじゃないし、自分にあった方法で頑張ればいいよ!」
「…そっか!そうだな!」
落ち込みはどこへやら…急にやる気に満ちた表情を浮かべハイタッチを求める安積に、満面の笑みで答える植野の姿はまるで仲の良い兄弟のようだ。
「これは…綾雪が安積の扱い上手なのか、安積チョロいのか、どっちなんでしょうね」
「どっちもでしょうね…」
そう、4人が今話題にしているのはもう直ぐある合唱際の楽譜である。合唱際にやる気をもって挑む生徒など殆んど居らず、優勝を狙うなんてもっての他だ。
「合唱際にここまでやる気になれるのは安積くらいでしょうね」
「なんにでも全力なヤツだ…」
「でもさぁ、せーちゃんみたいなのが居ると頑張ろうかなって思えてきちゃうのが不思議だよね」
「….それは確かに」
もう直ぐ昼休みが終わる。
安積はゴミをさっさとまとめると、楽譜を見て…居るのかは分からないが、手に持った楽譜を一応チラ見しながら鼻歌を歌い校舎へと足取り軽く向かっている。
そんな安積を班乃達3人は遠くから眺め見送った。
「…早速間違ってるな」
「まぁ、これから、ですよ…」
安積の喜ぶ顔が見れるのなら頑張ろうと思える、と思った先から不安が募る。でも始めたばかりだ、これからなんとでもなると1人自分を納得させる班乃だった…
「俺達はクラス違うしあんまり力にはなれないんだけどな」
「確かにっw 頑張ってね、会長!!」
「……えぇ、応援、ありがとうございます」
こうして班乃の果てしなく先の見えない合唱際への道が始まったのだった。
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