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- 10章 -
- 現実と夢の指輪 -
しおりを挟むそんな後悔にぼんやりとしたまま立ち上がらない植野をしばらく見下ろしていた鈴橋だったが、特になにを言うわけでもなく隣にしゃがみ込むと俯く植野を見上げた。
「…お前折り紙は?」
「えっ? あー…まぁ、鶴と兜と…チューリップくらいなら…多分?」
「それだけ出来れば大丈夫だ。後はフィーリングでなんとかしろ。子供は作り方なんてあってないようなものだから」
「…最終的にそれっぽく見えれば良いってこと?」
「そんな所」
「…ちょっと今の面白かった」
「たまにお前はよく分からない事いうよな」
「そう?」
「だから、後はまかせた」
「…おけっ!まかせてっ!!」
『…今のって、がっくんなりの優しさ、かな』
真意は分からないけれど、まかせたと言われて嬉しくないわけがない。腕捲りをし嬉々として飾り作りに参加すると、最後の子の迎えがやってくるその時まで楽しそうな声が教室内に鳴り響いていた。
「お疲れがっくんっ!!」
「疲れたのは俺よりお前だろ」
「まぁ、折り紙なんて小学生以来だしねっw でも楽しかったよっ!」
「そう、それは良かった。手伝ってくれて助かったよ。ありがとう」
「っ、どういたしまして! 俺でよければいつでも手伝うしからっ!軽率に声かけてっ!!」
「軽率って…まぁ、頼りにしてるよ。じゃぁ、俺達も帰るか」
突っ込むのも面倒になったのか、適当に話を閉めた鈴橋は片手で隠しながら欠伸をし大きく伸びる。
その姿は警戒心のなさが滲み出ており、気を使う事なく自然体で居てくれているようで嬉しくなる。
こんな些細な事でも幸せだと思う自分は最早末期かもしれないと考えながら、帰り支度を進める鈴橋に習い植野も支度を進めるのだった。
そうして2人揃って園から出た時には、世界はすでに黄昏時と化していた。もう間もなく姿を消すであろう太陽の光が作り出す影はだいぶ伸びきっている。
目で追いながら少し歩調を調節するだけで、2人の影は容易に重なりあう。そんな様子にさえ、もどかしさや妬ましさが沸き上がり、どうしようもない衝動が顔をのぞかせた。
手を伸ばせば容易に出来てしまう距離に居るのにその1線を超えてしまったらと考えると不安はぬぐえない。その不安を拭い去るだけの自信も根拠も全くの0なだけに、凄くもどかしい。
どうすれば良いのか。
その時、ふと班乃の言葉が頭をよぎる。
“僕がモテるのは女の子だけじゃありませんから”
裏を返せば、男にもモテると事だろう。
あの話の流れからして、そのモテるは ” 恋愛対象 ” としてって事で…
『会長は同性とも…経験あるのかな』
好きになったら。
手を握り
柔らかそうなあの髪や頬
いつも見ている事しか出来ないその唇と
触れあってみたい。
けれどそれだけで満足出きる筈はなく尽きることのない欲求はどんどんと膨らんでいき、そのずっと先だって一緒に経験してみたいと思う。
でも…
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