134 / 1,107
- 10章 -
- 現実と夢の指輪 -
しおりを挟む木々に囲まれた夜の墓地には、街灯の静かな電子音と、何の虫だか分からない鳴き声が響いている。
そのままどれくらい経っただろうか。線香が完全に燃えつき小さな明かりが消えた頃、先に口をきったのは班乃だった。
「…なんか盛大な告白をされた気分です」
「なんか盛大な告白をした気分ですw」
それから2人して顔を見合せ、大きく笑い合った。数時間しか経っていないはずのそれはなんだかとても懐かしく思え、班乃の口からでる軽口ですら今は嬉しく思える。
時計の針を見ればもう22時を過ぎていた。今から帰ってなんやかんやしたら、きっと睡眠時間は片手で足りるくらいだろう。
明日、遅刻しないようにしないとね、台本覚えてないとな、昨日のTVがー…など、実に身のない会話をしながら帰路を歩く。
なんでもない、小さなこと。普段当たり前にしていること。それがどんなに幸せなものなのか、改めて実感した1日だった。
手を振り合い帰路を別れ、粛々と自宅へと向かう。
安積と別れてからの帰り道。幾分か軽くなった気持ちともに、もう何度見たかも分からない指輪に目を落とす。
忘れなくたって良い。
思い出にして歩き出せれば良い。
『僕が好きになった人なら、か…』
微風に遊ばれた髪を直し満点の空を見上げる。
忘れられなくて
忘れたくて
無理やり蓋を閉めた
でも閉じ込められる事ではなかった。
けれど安積が居てくれたから、乱暴に無理矢理蓋を閉めるのではなく、今直ぐには難しくても、少しづつだとしても、彼女の記憶を思い出とする未来に向かって歩いていこうと思えた。
安積だけじゃない。
彼女の存在を知らせてくれたあの人。
時として
彼女の気持ちを代弁して伝えてくれるあの人。
彼には一体どんな彼女が見えていているのだろうか?
逃げるのではなく、聞いて向かい合う方がいいのかもしれない。きっと“ 普通 ” はこんな機会などないだろう。自分は、恵まれているのかもしれない。
聞いて、知って、それを理解することで自分ももっと前を向いていけるかもしれない。それは彼女を救うことにも繋がるだろう。
肩に残る温もりに手を添えると、久しく忘れていた感情が思い出された。
人と人で感じ会える純粋な温もりを
頼って頼られる嬉しさを
自分を知ってもらい
自分の為にかけられる暖かい言葉を
そうして、救われていくことを。
こうして人は生きていくのかもしれない。
これからは、逃げるのではなく、ちゃんと向き合っていこう。
自分は一人ではない、支えてくれる人が居る。
自分が犯してきた過ちだって、きっと清算出来る。
後に苦しめられる事となる自身の中の矛盾に気がつく事もないまま、班乃の顔には自然と笑顔が浮かんでいた。そして指輪のはまった手で、胸元の楓に渡すはずだった指輪に触れる。
「…心配かけてごめん。まだ時間はかかるけど、きっと大丈夫だから…だから、もう少しだけ時間を下さい」
暗闇に向かって発せられたその言葉に呼応するかのように、そばの木が大きく揺れた。
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
俺の義兄弟が凄いんだが
kogyoku
BL
母親の再婚で俺に兄弟ができたんだがそれがどいつもこいつもハイスペックで、その上転校することになって俺の平凡な日常はいったいどこへ・・・
初投稿です。感想などお待ちしています。
塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる