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慰弦

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- 9章 -

- すれ違い -

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「あの、一つお聞きして宜しいでしょうかっ!?」

「え?ぁ、はい、良いですよ?」


鈴橋の言葉に閃いた1つの可能性に胸を高鳴らせながら真剣な面持ちで店長を見つめた。

正直、タイプは全然違うし関わりがあったとは思えない。しかし誰とでもそれなりに付き合えるタイプだ。多少なり関わりはあった可能性はある。それでもあれだけ来たがらなかったなんて、そんなの気にならないわけがない。


「店長さんっ、長谷川鉄司ってご存知ですか?」


真面目な顔をした植野達を、きょとんとした顔で見返す店長。一瞬、勘違いだったか?という考えが浮かんだその時。


「鉄司って…えぇっ!てっちゃんの事!?君達てっちゃんの知り合いなのっ!?」

「はいっ!!」

「長谷川さんのお知り合いだったんですね」

「そうっ!!同級生!ぅわぁー、懐かしぃ!いつもてっちゃんと、もう1人仲良い子と3人でつるんでたんだよっ!なんなら今でも良く一緒に飲みに行ったりするしっ!!」

「うわぁー、意外すぎるっ!!めっちゃ仲良しじゃないですかっ!」

「そうなのっ、めっちゃ仲良しなのっ!えーっ、嬉しいなぁ、てっちゃんの知り合いが来てくれるなんて!あ、今さらだけど、秋山華暖あきやまかのんですっ。よろしくねっ!」


長谷川の名前を出した瞬間急に砕けた口調になった秋山が先程までとは違う無邪気な笑みで手を差し出す。それに応えるように手を差し出し握手を交わしながら植野達も順々に自己紹介を済ました。

きょとんとした顔。
昔を懐かしむ時の幸せそうな表情。
今でも仲良く出かけると言う嬉しそうな顔。

ころころ変わる表情。

どれもこれも様になっている。

その証拠に周りの女の人達の視線を一心に受けていた。


「長谷川さんが来たがらなかった理由がなんとなく分かった気がする」

「確かに…」

「え?…あぁー、そうなの。誘ってもなかなか来てくれないんだよね。でもしょうがないかなって。だってー」


悲しげな表情を浮かべた秋山は、人差し指を口に当て2人にしか聞こえないよう潜めた声で囁いた。


「てっちゃん、ミーハーでブリッコな女の子ちょー嫌いだもんね。正直俺も、鬱陶しいって思う時しょっちゅうだし」

「そうそう…って、えっ!?」

「あっ、秋山、さん?」

「内緒ねっ!w 」

「「あっ、はい…」」

「ふふっ、ありがとうございます! では私はそろそろ仕事に戻らせて頂きますね。お話しできて嬉しかったです。どうぞ、ごゆっくりしていって下さいね」


コロリと店長モードに口調を戻した秋山は爽やかな笑顔を張り付けその場を離れていき、2人は突如吐き出された毒にその後ろ姿を見えなくなるまで呆然と見送るしかなかった。

もちろん裏に入るまで、秋山は女の子達に笑顔を振り撒く事を忘れない。


「…商売上手」

「大人って怖っ…」


秋山が去った後怯える2人などお構いなしに突き刺さるのは興味津々な女性達の鋭い視線だった。只でさえ圧倒的女性が多い中で浮いていたのに、彼女らの注目のまとである店長と私的な会話をした上に内緒話までもしていたのだからー


「植野…」

「うん…食べたらダッシュで帰ろう」


捕まったらなにがあるか分からない。

そんな中でもしっかりとケーキを堪能する鈴橋を尊敬の眼差しで見つめ、食べ終わり会計を済ませた後近寄ってきた女性達の声を全力スルーした2人は、息を絶え絶えになんとか安全な帰路についたのだった。
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