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慰弦

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- 9章 -

- すれ違い -

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なにごとかと、2人が同時に振り向いたその目の前には、すらっとした長身の男性がお盆を片手に立っていた。


「お待たせいたしました。こちらが、ブルーベリーのチーズケーキ、こちらがシフォンケーキでございます」

「……」

「……」

「…えっと、すいません、賑やかで。男性のお客様が珍しかったので、どうしてもお会いしたくなってしまって」


そう言い、女の子が100人心臓麻痺起こしてしまいそうな笑顔を向けた店員。

長身で、緩いウェーブのかかったブロンドを軽く遊ばせ、綺麗なグレーの目をした色白な青年が立っていた。


「あれ?もしかして噂の店長さん?」

「おい、失礼だろっ」

「いえいえ、気にしないで下さい。噂はどうか分かりませんが、この店の店長させて頂いております。どうぞお見知りおきを」


植野の不躾な質問にもさわやかに返し綺麗な一礼をする青年、基店長の流れるような所作に思わず目が奪われる。同性から見てもそうなのだから、女性が心奪われるのも頷ける。

『けど、所構わず騒ぎ立てるのは品位の問題だよな』

多方面から突き刺さる視線に不機嫌になりながらもケーキを口に運び糖分でどうにか誤魔化す鈴橋を他所に、植野はそんな視線すら気にも止めていないように嬉々として会話をかわし続けており、密かに感心を覚える。


「やっぱりっ!噂通り!すっごいイケメンですねっ!」

「お褒めいただけて光栄です。…所で」


言葉途中に植野等に向け身を屈めた店長は、他の誰にも聞かれたくないかのように声を潜めた。なんとなく察し2人もそんな店長へと然り気無く身を寄せるとー


「その制服、静創学園の生徒さんですよね?」

「えっ? あ、はい?」

「わぁ、やっぱり?凄く嬉しいですっ」

「嬉しい?」

「はい、私も昔通ってたので」

「えっ!?そうなんですかっ!?」

「えぇ」


こんな人気の店長が実は自分たちと同じ学校の生徒だったなんてそんな偶然に驚きしかない。大した繋がりではないかもしれないが、それでも親近感は沸くというものだ。


「えぇー!すっごい偶然ですね!へぇー、すごぉー!写真とかないんですか?店長さんならこの制服めっちゃ似合ってそう!」

「あー…残念ながら僕が在学中はただの学ランだったんですよ」

「あー、そうだったんだぁ…それは残念」

「制服が変わる時に色々ありまして、印象が強かったんです。珍しい男性のお客様で、さらに母校って思ったら、声かけずには居られなくて…すいません、ご迷惑おかけしてしまって」

「いえいえ!そんなっ!声かけて貰えて嬉しかったー」


会話盛り上がる中不意に机の下で足をつつかれ、反射的に鈴橋を見る。眉に皺を寄せあからさまに不機嫌な顔をしており、蚊帳の外にした上に騒がしくてしまっていた事に遅ればせながら気がつき咄嗟に謝罪を入れた。


「いや、そうじゃなくて。長谷川さんも母校って言ってたなって、思って」

「あぁ、そうだね。鉄兄も静創学えー…あっ!そう言うことかっ!!って事はもしかして…っ!」

「はい?」


静創学園のOB。長谷川が来たがらなかった理由。

それは、もしかして…


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