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慰弦

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- 9章 -

- すれ違い -

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結局、席につけたのは店についてから一時間は並んだ後で、疲労困憊な鈴橋とは対照的に植野の顔は生き生きとしていた。


「疲れた…黄色い声うるせぇ…9割がた女性ばっかで居心地悪い…」

「えー?そう?かわいい子いっぱい居て最高じゃない?眼福~眼福~」

「その女の子達はほぼほぼ店長目当てだけどな」

「良いの良いのっ!俺好きな子いるし、見て楽しむだけだからっ!」

「そうか、なるほど。これが俗に言う目の浮気か」

「人聞き悪いなっ!?まだ付き合ってないからセーフっ!…というか、付き合えるかどうかもあれなんだけど…」

「あ、そう」

「もう少し興味もってっ!?」

「激しくどうでもいいな」

「ひどいっ!?」


不満げな空気を醸し出す植野を全力でスルーし紅茶で喉を潤す。

その言葉通り興味はなかった。
興味はなかったけれど…

『…そうか。ちゃんと好きな女の子がいるんだ』

昨晩の事で色々と考えもやもやしていたが、思わぬ所で昨晩の出来事が自分の勘違いだったのだと判明し安堵の溜め息をついた。

『それが分かっただけでも、ここに来て正解だったな。まぁ、その代償は…大きいけど』

店外程ではないが、相変わらずミーハーな顔を隠そうともせずそわそわしながらこそこそとした声がそこらにあふれ鬱陶しい。

一刻も早くここから出たい気持ちが渦巻くけれど、もう間もなく注文品したケーキが来るかと思えば絶対に帰りたくないというアンビバレンスが忙しい。


「うーん…会うのは難しいかなぁ…」

「ぁ? 誰と?」

「誰って店長さんだよw 最初は奥に引っ込んじゃってたし、出て来たら出て来たで女の子という壁に隠れて見えないし…」

「あぁ、そういえばそうだったな。別にもう良くないか?なんでお前はそんな興味津々なんだよ…」

「そんなん興味しかないに決まってんじゃんっ!!鉄兄が来たがらなかったのって、絶対ココの店長と因縁があるからだと思うし!気になる!」

「因縁って…しかし、遅いな。ケーキ。早く食って帰りたいんだけど…」


と言いつつも、今心待ちにしているケーキは追加注文分であり、既に一つ目のケーキを完食しようとしている鈴橋が呟いた。

鈴橋は意外と甘いものが好き。
そんな新事実が、店長への興味よりも植野の心を密かに盛り上げていた。


「そうだね、店員に聞いてみr」


いい終わる前のタイミングで、女の子達の黄色い声がいっそう大きくなった気がする。
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