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- 9章 -
- すれ違い -
しおりを挟むそろそろと腕と顔が近づく。
頭上になにかあるのか、視線も頭上に延びている。
潜めた息が微かにおでこに掛かかり、そのこそばゆさに、その距離感に、ふと昨日の出来事が頭を掠めた。
「なっ、なに?植野?」
「しっ!」
小声で掠れた声が背筋になにかを走らせ、緊張で固まる体から力が抜けていくのを感じた。このままでは不味いと咄嗟に身を引こうとした瞬間ー
「ちょっと植っ!」
「捕ったー!」
「…はぁっ?」
それよりも早く屈んだ背筋を伸ばし、嬉しそうに笑う植野の指にはバタバタ…バチバチと音をならすなにかが摘ままれていた。
「…それ、なに?」
「それなにってww トンボっ!」
「…そう、だな。トンボだな」
「やぁー、トンボにまで好かれるなんて流石がっくんw」
「ぜんぜん……全っ然っ!嬉しくっ!ないけどなっ!!」
「ははっw 」
盛大な勘違いのせいで自身の身に起きてしまった異変に戸惑いと羞恥心や一気に膨れ上がり、それがこの虫1匹のせいだと思うと腹立たしい。
『なんで…植野相手にっ』
気のせいだと否定したいが、否定を肯定出きる程呑気な脳みそは持ち合わせていない。捕まえたトンボをまじまじ愛でた後、律義に手を振りながら逃がす植野が若干憎らしい。
鈴橋がそんな事を考えている等露知らず、植野は輝かしい笑顔で両手を打ち鳴らした。
「ねぇ、がっくん!!甘いもの食べ行かない?」
「…なんで?」
「駅近にあるカフェが雑誌の特集に出ててさ、スッゴい美味しそうだったんだよ!鉄兄誘ったらなんでか分からないけどスッゴい剣幕で断られてさぁ…ねっ、行こう!」
「断る」
「秒でお断り!?」
「安積でも誘え」
「え~…がっくんと行きたーい」
「意味分からん…それにあそこ、入りづらいから嫌だ」
「えっ?あのカフェ知ってるの?」
「知ってるも何も、店長目当てに群がる女が道路で騒いで邪魔でしょうがないんだよ。鬱陶しい…」
「へぇ! そんななんだっw 確か口コミでも店長イケメン~♡目の保養~♡って書かれてたし、本当に店の売りになってんのねぇ! なら尚更気になるなぁ!」
「……お前、そんな面食いだったのか」
「違う違うっw イケメンがってのは別になんだけど、鉄兄があの人には関わるなって言うからさぁ」
「…ならなんで行こうとしてんだよ」
長谷川がそう言うのなら、何か大きな問題があるに違いない。人の忠告は素直に聞けよと思うが…
「いやっ、だって面白そうじゃんっ!」
「………」
植野が大人しくしているわけがない。
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