Pop Step

慰弦

文字の大きさ
上 下
109 / 1,151
- 9章 -

- すれ違い -

しおりを挟む


それから少し時間は遡る。

いつも通りの帰路をいつも通りに歩く。隣を歩く人物も腹立たしい程にいつも通りだ。けれど辺りを漂う気まずい空気はその限りではなかった。

そんな空気を感じているのは自分だけだろうが…

『会長は生徒会の仕事とかなんとかで一緒じゃないし、安積は安積で倉庫掃除頼まれたとかなんとかで一緒じゃないし…』


「…理由作って一人で帰れば良かった」

「ぅん? なんか言った?」

「植野には関係ない」

「そ、そう?」


『俺が起きてたのを知らないから、コイツはいつも通りでいられるんだろうけど…』

自分には無理だ。

昨日は咄嗟に考えることを放棄してしまったが、このまま放棄し気にしないで居られる程些細な問題ではない。

隙あらば頭を占領してくる昨晩の出来事に何もなかったかのよう振る舞うことは、花を1000本育てるより難しい事だった。自然に減る口数だが、普段からそこまで口数が多いわけではないので怪しまれる事はないだろう。


「…ねぇ、がっくん、なんか機嫌悪い?」

「……」


『…これ、普通に怪しまれてるな』


「なんでだよ。別にいつも通りだろ」

「そう?」

「そう」


しかしポーカーフェイスには自信がある。無表情を張り付けいつも通りだと言いきると、少しばかり訝しげに見つめてくるが納得はしてくれたらしく、「そっか」と呟き軽く笑った。


『…良かった。誤魔化せ』


「良かったぁ。なんかしたかと思ったよー」

「……」


『誤魔化せ…た?』

誰のせいだと文句を言って何故あんなことをしたのかと問いただしてやりたいが、そこはグッと堪える。もし今問いただし答えを貰ったとしても、これに対する答えは出せないだろう。

それに、聞くのも少し怖い。

『…もう良い。今からでも適当に予定作って一人で帰ろう』

今逃げても明日、明後日と会うことになるのだから意味はないかもしれないが、それでもこのまま一緒にいるのは少し辛い。


「…悪い植野。俺、これからー」

「あっ、ちょっと待った!」

「はっ?」

「良いからっ!動いちゃ駄目だから!じっとしてて」

「なっ、なんだよ」


急に真剣な顔をし息を潜める植野に、反射的に鈴橋も息を止めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

ある少年の体調不良について

雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。 BLもしくはブロマンス小説。 体調不良描写があります。

そんなの真実じゃない

イヌノカニ
BL
引きこもって四年、生きていてもしょうがないと感じた主人公は身の周りの整理し始める。自分の部屋に溢れる幼馴染との思い出を見て、どんなパソコンやスマホよりも自分の事を知っているのは幼馴染だと気付く。どうにかして彼から自分に関する記憶を消したいと思った主人公は偶然見た広告の人を意のままに操れるというお香を手に幼馴染に会いに行くが———? 彼は本当に俺の知っている彼なのだろうか。 ============== 人の証言と記憶の曖昧さをテーマに書いたので、ハッキリとせずに終わります。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

ヤンデレでも好きだよ!

はな
BL
春山玲にはヤンデレの恋人がいる。だが、その恋人のヤンデレは自分には発動しないようで…? 他の女の子にヤンデレを発揮する恋人に玲は限界を感じていた。

笑わない風紀委員長

馬酔木ビシア
BL
風紀委員長の龍神は、容姿端麗で才色兼備だが周囲からは『笑わない風紀委員長』と呼ばれているほど表情の変化が少ない。 が、それは風紀委員として真面目に職務に当たらねばという強い使命感のもと表情含め笑うことが少ないだけであった。 そんなある日、時期外れの転校生がやってきて次々に人気者を手玉に取った事で学園内を混乱に陥れる。 仕事が多くなった龍神が学園内を奔走する内に 彼の表情に接する者が増え始め── ※作者は知識なし・文才なしの一般人ですのでご了承ください。何言っちゃってんのこいつ状態になる可能性大。 ※この作品は私が単純にクールでちょっと可愛い男子が書きたかっただけの自己満作品ですので読む際はその点をご了承ください。 ※文や誤字脱字へのご指摘はウエルカムです!アンチコメントと荒らしだけはやめて頂きたく……。 ※オチ未定。いつかアンケートで決めようかな、なんて思っております。見切り発車ですすみません……。

目覚ましに先輩の声を使ってたらバレた話

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
サッカー部の先輩・ハヤトの声が密かに大好きなミノル。 彼を誘い家に泊まってもらった翌朝、目覚ましが鳴った。 ……あ。 音声アラームを先輩の声にしているのがバレた。 しかもボイスレコーダーでこっそり録音していたことも白状することに。 やばい、どうしよう。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

処理中です...