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- 9章 -
- すれ違い -
しおりを挟むあぁ、どうしよう。
優しくできそうもない。
口から出てしまいそうな、思いやりの欠ける言葉をなんとか押し留めてから、背中に感じる体温に少し寄りかかるようにして上体をそらす。
理不尽な八つ当りを受けても、素直に謝罪と感謝を述べる安積を前にすると、自分の未熟さを痛感させられ居たたまれない気持ちになる。
「頼られない、というのも寂しいんですよ」
「え?」
「…んー、なんて言えば良いんでしょう。友達と助け合うのも、貴方が大好きな “ 青春 ” だと思うんですけど?」
「へ?」
「…ち、違いますか?」
「・・・あ、うん。そう、だね」
急になにを?とでも言いたげな空気が安積から漂い居たたまれない。自分でも分かっている。こんなの全然自分らしくない…自分でも何を言っているんだと思う。
沸き上がる羞恥心を大きな咳払い1つでなんとか吹き飛ばした。
「とにかく、貴方が秘密にしたいと言うなら、貴方の意思を尊重します。でも僕にはもう隠す必要はないですし…僕は、貴方の力になりたいと思っています。それは、いいでしょ?」
「…ふっ、ふははっ」
「安積?」
「ははっ、あはははっ!あはっ、あぁ…ごめんごめん。ぃや、あっきーから青春なんて言葉聴けるとは思わなくてっ…似合わなっ…w」
「…もう良いです。帰ります」
「ごめんって、ごめんっw」
立ち上がりかけた班乃を引き止めるように後ろから腕を回し、笑いを抑えるために大きく息を吸った。
『なんだろう、凄く安心する匂いがする。…いっか。良いや、なんでも…』
誰にも言わなかったのは自分の意思で間違いないが、それを知らず知らずの内に負担と感じていたのは、今身体中に広がる肩の荷が降りたような安心感が証明していた。
なにも隠さず頼れる人がいる。
それだけの事が、こんなにも安心感と心強さをくれるなんて思わなかった。
「ありがと、あっきー。頼りにさせてもらうね。迷惑かけるかもだけど、これからも宜しくっ!」
「えぇ、任せてください」
迷惑だなんて思ってないのに…と思いながらも、そん感じてしまう気持ちは分からないでもないしと一旦言葉を飲み込んだ。
しかし…
「どうかした?」
「…いえ、なんでも」
抱き付かれたまま動きを止めた班乃を心配そうに覗き込む安積に軽く笑って答えるが、その心中は少しばかり動揺していた。
いつもは生徒会長として、学級委員長として、頼られる事の多い立場だからこそ、ことを荒らげるような事はせず常に冷静にと気をつけていた。
けれどそれだけじゃない。
ある時期から感情的になる事自体あまり出来なくなってしまい、それを良しとしてきた班乃にとって感情のままに声を荒らげてしまった自分自身に驚きを隠せないでいたのだ。
「……それじゃぁ、帰りましょうか?」
「あっ…いや、倉庫掃除終わってないから、先帰ってて良いよ!今度はちゃんと保健室でマスクもらって来るから」
「そんな必要ありません」
「へ?」
「見たところ大方片付いてましたし、後は責任もってやってくださいと僕から言っておきます」
「やっ、でも、自分で引き受けたんだs」
「じゃぁ、帰りましょうか。今日は疲れたでしょうし、寄り道はなしで」
「…う、うん」
有無を言わせずぴしゃりと言い放つと、まだ座ったままの安積の腕を掴み引っ張り立ち上がらせた。
清清しいのに、どこか怒気を含んでいるような、それなのに少し楽しんでいるような、そんな表情を浮かべ足取りの軽く出口へと進んでいく班乃の後ろを、安積は少しばかり恐怖を覚えながらついていくのだった。
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