107 / 1,142
- 9章 -
- すれ違い -
しおりを挟む「ほんと、次からはちゃんと気を付ける。それにさ、もしなんかあっても薬はいつも持ち歩いてるし、慣れてるから大丈夫だよ!」
『慣れてるから…それが、なんなんだよ』
安心させるためにそう言ったのかもしれないが “ だからなんだ ” が正直な感想でしかない。
確かにそうなのかもしれない。持病持ちの子供が自身で躊躇いなく注射を打てるように、安積にとっても発作はその程度の事なのだろう。
けれど、苦しい事には変わりない筈で。
心配になるのは、致し方ないことで。
それを大丈夫だと “ 否定 ” されるのは
なんだか蔑ろにされてしまったようでー…
「……なる程。要するに、心配も協力も、必要のない無駄なことだったって事ですね」
「え? いやっ、そうじゃなくて…」
「誰にも言わないって事は、何があってもどうなっても、自分でどうとでも出来るって事ですよね」
「…それはっ」
「すいませんでした。余計なことをしてしまって」
「そうじゃなくて」
「もういいですっ!!」
無性に苛立たしい。安積自身がそういう思いで言ったわけではないと分かっては居るが、無性に腹の底が落ち着かず思わず声を荒げた。
「……ごめん」
「…………」
他に返す言葉も思い浮かばず、それを最後にお互い沈んだ顔のまま気まずい沈黙が流れる。どれだけ過ぎただろうか。遠慮がちに袖を引っ張られる感覚に班乃がその沈黙を破った。
「…なんですか?」
分かっている。安積が悪いことはしたわけではない。どちらかといえば、頼りにしてもらえず、心配させたくないという言葉をひねくれて捉え、自分が拗ねて八つ当っているだけだ。自覚しているだけに目を合わすことが出来ない。
「嫌だったんだ。仲良くなった子が持病持ちなんてさ、気つかうでしょ?心配、かけさせちゃうじゃん。迷惑、かけさせちゃうでしょ?」
「仲の良い人を……大切な人を心配することを迷惑だなんて、思うわけないじゃないですか」
「…そうかもしれないけど、でも俺は、なんの 気兼ねもなく皆と仲良くしたい。喘息だって誰も知らなければ、俺も普通で居られる気がするんだよ」
「安積……」
「気がするだけで勿論なかった事出きるわけじゃないし、気を付けなきゃならない事には変わりないんだけどね」
渇いた笑い声が耳に届く。明らかになった誰にも言わなかったその理由が、自分の思慮のなさを浮き彫りにさせた。
「その考えは変わらないし、これからも今まで通りにしていきたい」
「安積…」
「でっ、でも、心配してくれて…すっごく嬉しかったよ。ほんとにっ!矛盾、してるかもだけど…大事に思ってくれて嬉しかったっ!ありっ、がとっ」
嬉しいからなのか、迷惑をかけた申し訳なさからなのか、その真意は分からないけれど、安積の頬を一粒の涙落ちる。
悟られないようにする為か、控えめに背中に預けられた体重を愛おしくも感じた。
けれど…
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説


別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。


初恋はおしまい
佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。
高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。
※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。
今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。

BlueRose
雨衣
BL
学園の人気者が集まる生徒会
しかし、その会計である直紘は前髪が長くメガネをかけており、あまり目立つとは言えない容姿をしていた。
その直紘には色々なウワサがあり…?
アンチ王道気味です。
加筆&修正しました。
話思いついたら追加します。
美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした
亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。
カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。
(悪役モブ♀が出てきます)
(他サイトに2021年〜掲載済)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる