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慰弦

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- 9章 -

- すれ違い -

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「ほんと、次からはちゃんと気を付ける。それにさ、もしなんかあっても薬はいつも持ち歩いてるし、慣れてるから大丈夫だよ!」


『慣れてるから…それが、なんなんだよ』

安心させるためにそう言ったのかもしれないが “ だからなんだ ” が正直な感想でしかない。

確かにそうなのかもしれない。持病持ちの子供が自身で躊躇いなく注射を打てるように、安積にとっても発作はその程度の事なのだろう。

けれど、苦しい事には変わりない筈で。

心配になるのは、致し方ないことで。

それを大丈夫だと “ 否定 ” されるのは

なんだか蔑ろにされてしまったようでー…


「……なる程。要するに、心配も協力も、必要のない無駄なことだったって事ですね」

「え? いやっ、そうじゃなくて…」

「誰にも言わないって事は、何があってもどうなっても、自分でどうとでも出来るって事ですよね」

「…それはっ」

「すいませんでした。余計なことをしてしまって」

「そうじゃなくて」

「もういいですっ!!」


無性に苛立たしい。安積自身がそういう思いで言ったわけではないと分かっては居るが、無性に腹の底が落ち着かず思わず声を荒げた。


「……ごめん」

「…………」


他に返す言葉も思い浮かばず、それを最後にお互い沈んだ顔のまま気まずい沈黙が流れる。どれだけ過ぎただろうか。遠慮がちに袖を引っ張られる感覚に班乃がその沈黙を破った。


「…なんですか?」


分かっている。安積が悪いことはしたわけではない。どちらかといえば、頼りにしてもらえず、心配させたくないという言葉をひねくれて捉え、自分が拗ねて八つ当っているだけだ。自覚しているだけに目を合わすことが出来ない。


「嫌だったんだ。仲良くなった子が持病持ちなんてさ、気つかうでしょ?心配、かけさせちゃうじゃん。迷惑、かけさせちゃうでしょ?」

「仲の良い人を……大切な人を心配することを迷惑だなんて、思うわけないじゃないですか」

「…そうかもしれないけど、でも俺は、なんの 気兼ねもなく皆と仲良くしたい。喘息だって誰も知らなければ、俺も普通で居られる気がするんだよ」

「安積……」

「気がするだけで勿論なかった事出きるわけじゃないし、気を付けなきゃならない事には変わりないんだけどね」


渇いた笑い声が耳に届く。明らかになった誰にも言わなかったその理由が、自分の思慮のなさを浮き彫りにさせた。


「その考えは変わらないし、これからも今まで通りにしていきたい」

「安積…」

「でっ、でも、心配してくれて…すっごく嬉しかったよ。ほんとにっ!矛盾、してるかもだけど…大事に思ってくれて嬉しかったっ!ありっ、がとっ」


嬉しいからなのか、迷惑をかけた申し訳なさからなのか、その真意は分からないけれど、安積の頬を一粒の涙落ちる。

悟られないようにする為か、控えめに背中に預けられた体重を愛おしくも感じた。

けれど…

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