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- 9章 -
- すれ違い -
しおりを挟む暫くの間、広い体育館には二人の息遣いだけが聞こえていた。
呼吸が完全に落ち着いた戻った頃、力尽きた様に大の字に寝転がりぼんやりと天井を眺めている安積の隣で、班乃は立てた片膝に腕と顎を乗せた体勢で黙りこくっていた。
「……ねぇ、あっきー」
「………」
「あの…」
「ーんで」
「え?」
沈黙の中先に口を開いたのは安積だったが、その言葉にかぶせるように、なにもない空間に視線を向けたままの班乃が口を開いた。
「なんで黙ってたんですか?」
「…そ、れはー」
「なんで倉庫の掃除なんて引き受けたんですか?」
「ー…だって俺しか空いてる奴が居ないって言うから」
「…心配する事は迷惑ですか?」
「え?…いや、そんなんじゃ、ないけど」
心配をかけたり気をつかわせてしまうのが申し訳ないとは思えどそれが迷惑だなんて考えた事などなかったし、掃除を引き受けたのはただ誰かの役にたちたかっただけだ。
今の今まで自分の引き出しになかった班乃の返答に戸惑うが、もし逆の立場だったらと考えたならー…
寝転がって言うことではないと上体を起こし班乃へと視線を向けるが、即座に反らされた視線が苛立ちを表して居るようで言葉が詰まる。
けれどここで言葉をつぐみ自分の過ちを謝罪しないなんて、そんな不誠実な事はしたくない。ぎゅっと手を握るとなんとか気持ちを震い立たせた。
「ーごめんあっきー。迷惑かけちゃった。ありがとう、すごく助かった」
自分にそんな意図はなかったとしても、そんなに頼りないのかと悲しませてしまったかもしれない。不甲斐ないと落ち込ませてしまったかもしれない。
でも…
「でっ、…でもっ、皆には言わないで欲しいんだよね。変な気使わせたくないし。無理して運動したりとか、そういうの、ちょっと気を付ければ大丈夫だから。今日はたまたま…えと、油断しちゃって…」
「…………」
自分にとって発作は何度も経験してきた良くあるだと油断していたのは確かで、今日だって薬を飲むなりマスクをするなり予防をしていればこんな事にはならなかった筈だ。これは完全な自分の落ち度でしかない。
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