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- 9章 -
- すれ違い -
しおりを挟む早る足を止めることなく体育館へと向かい勢い良く扉を開けると、ステージへと進み地下に向かう6段ほどの階段を2歩で飛び降りた。
「安積っ!居ますかっ!?」
上がる息を深呼吸で整えながら返答を待つがなかなか返ってこない。 かび臭さが鼻を突き眉をしかめつつゆっくり歩みを進めると、奥から小さな物音がした。
「安積?」
奥の奥、薄暗い電気の照らす場所からひょっこりと顔を出したのは、探し人である安積だった。驚いたように瞬きを繰り返し、口元には制服の燕尾部分を当てマスク変わりにしている。
「あれっ、あっきー?帰ったんじゃなかったの?」
不思議そうな顔をしながら自分を見る安積には、特に変わった様子はない。
『…良かった、元気そうだ』
心配は杞憂だったようだと、班乃はひっそりと安堵の息をもらした。
「学校の用事だったんですよ。さっき昇降口で顧問に会って、貴方が倉庫の片付けしてると聞いて」
「あ、もしかして手伝いに来てくれた感じ?」
嬉しそうに小走りで歩みって来た安積は、元気そのものだ。
『…心配しすぎましたね』
だが、なにもないならそれが良い。
心配は損にはならない。
いつものように元気で居てくれるならそれで良いのだ。
「えぇ。先程下駄箱で顧問に会って、安積が片付けをしてると聞いたので」
「それで来てくれたの? ちょー優しいっ!!」
「そんな事ないですよ。自分の部活でもありすしね。しかし、自身の怠慢を生徒に押し付けるなんて…顧問あるまじき行為ですね」
「まぁまぁ、俺も役に立てて嬉しっ…!?」
班乃まで後5mほどの距離。
急に体勢を崩した安積の足元には床にはみ出している黒い布、恐らく暗幕が不用心に転がっていた。
見事に足を取られ膝をつくが派手に転ぶまでには至らず、四つん這いのまま強ばった表情で呆然と暗幕を見つめている。
「びっ、びっくりしたぁっ!」
「ちょっと、大丈夫ですか?気をつけー…安積っ!?」
「え?」
転けただけならまだ良かった。躓いてこけたくらいじゃ大した怪我もしないだろう。
だが安積の頭上、暗幕が引っかかっていたらしい大きなダンボールがぐらつき、それは重力に逆らう事なく無慈悲に落下を始めていた。
咄嗟に叫び駆け寄ってくる班乃の視線を追い、安積が段ボールの存在に気づいた頃には、避けるには遅すぎた。
「っ!!」
間に合わない。安積は自分に襲ってくるであろう衝撃に耐えるように反射的に頭に手をかけてうずくまった。
が、予想したような衝撃がこない。
恐る恐る目を開けると、ダンボールではない、温かみのある何かが自分に覆いかぶさっていた。
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