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- 9章 -
- すれ違い -
しおりを挟む「良いなぁ皆。俺も体育したかったなぁー」
「安積君…?」
「皆と一緒にさ、走り回って一生懸命勝負して、なんつーの?そこから生まれる友情みたいなの。そーいう、青春みたいなのって、憧れるなぁ」
「…もう駄目みたいなそんな言い方あんまり良くないよっ!大丈夫だって、いつかきっと出来る日が来るって!」
「そうかなぁ。お医者さんは体が大人になってくれば治ることもあるって言ってたけど…そういわれ続けてなんも変わらないまま、もう15年だよ?たぶん無理なんだろうなぁ」
「そんな事ないよ!!大人になって良くなる事例はたくさんあるし、君たちは体も体力も発展途上なんだよ?病は気からって言葉もあるし、諦めちゃ駄目!人生まだまだ長いんだからっ!」
「そうは言うけどさ…今の皆とそう言うふうに出来るのは今しかないし…やっぱり悲しいよね」
「それはー…」
なんだかんだ明るく振舞っていても、やっぱり自分だけ皆の輪に入れないのは寂しいのだろう。15年も言われ続けて、15年も我慢してきて、それでも改善が見られなくて落ち込んでしまう気持ちは想像を絶するのだろう。
まだまだ人生長いなんてフォローは、今の友達と、今しか出来ない友情を築きたい、そう願う彼にはなんの役にもならない言葉だった。
…どうしよう。
こういう時、どんな言葉をかけてあげれば彼の助けになれるのだろうか。
「って、落ち込んでてもしょうがないよねっ!先生俺ねっ、演劇部入ったんだよっ!発声練習とか筋トレでさ、内蔵も鍛えられるから体質改善できるかもって!まだ効果はないけど卒業までにどれだけ改善されるか楽しみなんだよね!ってか、それ抜きにしても演劇って楽しくってしょうがなくってさ!」
「…そっか!!そんな頑張ってるなら絶対良くなりますよっ! 楽しめて良くなるなんて最高ですねっ!頑張ってください、俺も応援してますからっ!」
「ありがと先生!ちょーがんばる!――って事で」
「ん?」
ひとしきり話し終えた安積が教科書を素早くまとめ席を立つ、と同時に授業終了の鐘が鳴り響いた。
「じゃ、今日もありがとうございました! バスケのポジションは次までに覚えて来まっす!!」
「えっ? あっ!?」
言うや否や、脱兎のごとく保健室を飛び出す安積を、葉斗はなすすべなく、椅子から立つこともなく見送る形となった。
「…もしかして、うまく逃げられ…た? や、でもあの顔は真剣だったよな?」
ころころと変わる安積の態度に、どれが本心か分からず、つかみ所のない感じを感じてしまう。
「彼の本心…は」
きっと、全部なのだろう。
改善させたいことも。
一向に治らず焦って落ち込んでしまっている事も。
部活に希望を託している事も。
バスケのポジションが分からず、自分から逃げるために持病の話を持ちかけた事も。
「だって、あんな寂しそうな顔されたら聞くしかねぇじゃん」
若干やりきれない気持ちを抑えつつ、葉斗は次の授業のため、入り口に「外出中」の札を下げ保健室を後にしたのだった。
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