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慰弦

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- 8章 -

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安積と別れてから、班乃は昼とは違う輝きを見せはじめた夜の街を歩いていた。その目は誰かを探すように静かに動き、声をかけてくる人々を目も合わせずに無視して進む。暫く歩いた頃、後ろから自分を呼ぶ声に振り返ると、そこにいたのは先程 “ 人違い ” をしたあの女性だった。


「ごめんね。お友達が居るの、気がつかなかったの」

「白々しいですね。別にいいですけど」

「本当だって。ね?今日はどうするの?」

「どうもしませんよ。帰ります。明日は普通に学校ですし」

「最近ずっとそればっか。まぁ、学生の本分だからなんともいえないけど。…みんな寂しがってるよ?」

「僕の知ったことではありませんね。たまたま付き合ってあげただけの人を気にする義理なんてありませんし」

「本当、君って最低」

「今頃気がついたんですか」

「うぅん。再確認しただけ。まぁ、いいわ。あの子達もちょっとルール違反だしね。また気が乗ったら付き合ってよ。待ってるし、私も明が寂しくなった時は付き合うからさ」

「…余計なお世話です」

「まったく、かわいくないんだから。じゃぁ、またね」


片手をひらひらと緩やかに振って背を向けた女性は、町へと溶けるように軽やかに歩き出す。その姿を無言で見つめそのまま見送るつもりだったのだが、意識とは関係なく口が開く。


「……里緒!」

「なに?」

「…土曜日、22時に」


里緒と呼ばれた女性は、丁寧に紅の塗られた唇に綺麗な項を描いた。その笑みは罪人がまた新たな罪を重ねるかのような、どこか悲しげな印象を与えるものだった。


「まってる」


その言葉を最後に、里緒は今度こそ姿を消す。

しばらくその姿を見ていた班乃だったが、小さなため息と共に駅へと足を向けた。


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