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- 8章 -
- 休日 -
しおりを挟む「悪いな、手伝ってもらって」
「いいって。それより手首、どうしたの?」
「…風呂場で紗千がこけそうになって、支えようとしたんだけど…ちょっとしくじって。大丈夫、大した事ない」
「大した事ないって…かなり腫れてたみたいだけど」
「…まぁ、見た目に値するくらいの痛みはあるけどな」
「それ、大丈夫って言わない」
「…そうだな」
そう肯定する鈴橋の顔は困ったように笑っていた。
「紗千には言うなよ。紗千は悪くないし…お前と一緒で心配性だからな」
それだけ言うと踵を返し、“ 俺チーズケーキが良い ” と言いながら何でもないように戻って行った。
『心配性って…しょうがないじゃん。それだけがっくんが大事なんだし。紗千ちゃんも…俺も』
大事の意味は大きく異なるけれど、きっと鈴橋は分かっていないだろう。それに、今は伝えることは出来ない。モヤつく心を意識的に振り払うと、少し遅れて植野も自分に用意されたケーキへと向き合った。
家族そろってデザートを食べたあと、紗千が目をこすり始めたのを合図に植野は紗千を抱きあげ、鈴橋の部屋へと向かった。
そこには鈴橋の母親が用意してくれたのだろう。敷布団が二つ引いてあった。
「流石に三組は引けなかったって…そんな広い部屋じゃないし」
「良いよ良いよ。紗千ちゃん小さいし、むしろがっくんも小さいし」
「…喧嘩売ってる?」
「あれ?気を使ったつもりだったんだけどw」
布団の真ん中に、すでに半分寝ている紗千を横たわらせると、植野はそばに腰を下ろした。
「寝るにはまだ早いけど…なんか今日は疲れたから、俺ももう寝たい」
「うん、分かった。俺も布団入いらせてもらおうかな」
電気を消し、紗千を起こさないように静かに二人は布団にもぐった。
「がっくん」
植野、紗千、鈴橋の順で川の字になっているため、自然と小声になる。
「ん?」
「あんまり無理しないでさ、もっと頼ってよ。お風呂は無理かもしれないけど、髪乾かすとか、遊び相手になるとか。色々手伝えることあるよ?…俺、がっくんの手伝いがしたい」
「なんだよ急に。もう十分世話になってるって」
「もっとだよ。もっともっと…」
「なんだよ急に」
「……なんでもない」
「変な奴」
「はは、まぁ、いいや。お休み、がっくん!」
「あぁ、おやすみ」
その会話を最後に、というかその言葉が最後の言葉とでも言えそうなほど、言うや否や鈴橋は寝息を立て始めた。
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