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- 8章 -
- 休日 -
しおりを挟む「…まじで?」
「…俺が気づいたくらいだ。紗千ならもっと気づく」
何もつかんでない箸を空中で止めたまま、心なしか難しい顔をした鈴橋は手に持った茶碗に視線を落としている。
「ごめん」
「別に謝ることない。ただ…ただお前が嫌な思いをしたなら悪いことしたと思って」
「…悪いこと?」
「……」
生まれてから両親に囲まれ、11の時には妹が出来て、今まで幸せに暮らしてきた。そんな鈴橋にとって片親の気持ちがどんなものなのか正直分からなかった。
自分にとって植野は、しょっちゅう一緒に居るし学校が終われば保育園の手伝いにも来てくれる、妹も良くなついているし両親も気に入っている。手伝いがない時は一緒に勉強会や映画鑑賞もする。最早同級生や友達と言うよりは家族に近い感覚で居た。
だからこそ夕飯にも誘ったのだが、もし幸せな家庭を見せつけられた、自慢された、そう感じさせてしまったなら。
嫌だと感じてしまったなら。
悲しく感じてしまったなら。
どちらだとしても、申し訳ない事をした。
ただ、鈴橋には自分の中で感じているこの気持ち全てを、植野に伝えられるだけの力はなかった。
黙り込んでしまった鈴橋と植野、そして紗千。そんな中テレビに夢中だった父親が、このなんとも言えない空気を読んでか、気がつかなかっただけなのか、上機嫌そうに鼻で笑いビールを一口飲んでから植野達に視線を向けた。
「やー、綾雪くんが居ると家族が一人増えたみたいだな。かぁさん、いつ産んだ?」
「…酔っ払いは置いといて。本当綾雪が居ると家族が増えたみたいで楽しいわね」
「家族…?」
「…俺達家族と共有してる時間多いしな。だから…なんだ…俺達にとってお前はもう家族みたいなもんで、血は繋がってないけど、居て当たり前な空気みたいな、居ないと違和感があると言うか…だから……」
やっぱり上手く言えない。言葉が出てこない。言いたい事はあるのに、整理が出来ない。次に言う言葉を探していると、その言葉を待つ植野は泣きそうな、少し情けない顔で鈴橋を見ていた。
初めて見る植野の顔に、鈴橋はいつもより少し強く心臓が鳴るのを感じる。まるで、そう、小さな子供が助けを求めているような顔だ。
「…お前が嫌じゃなければいつでも来い。皆、歓迎するから」
そんな鈴橋の言葉に両親も同意する様に頷き植野へと笑顔をむけた。
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