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慰弦

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- 8章 -

- 休日 -

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「すいません、さっきの所で忘れ物したみたいです」

「え? 忘れ物?? 珍しいね」

「僕だってたまにはうっかりする事だってありますよ。では、気をつけて帰ってくださいね」

「うん、ありがと! あっきーもね」

「えぇ、ありがとうございます」


少し恥ずかしげに笑った班乃は、じゃあと片手をあげ今来た道を戻って行く。


「……」


そんな後ろ姿を見送りながら、不信感が募っていく。

さっきの人は本当は知り合いだったんじゃないか。

自分には知られては困るから、咄嗟に人違いだと話を合わせたんじゃないか。

自分を見たとたん、人違いだと認めた女性の不自然さ。

疑問を抱かずには居られなかった。

だとしたら、班乃と先程の女性はどう言った知り合いなんだろうか?

あからさまに同年代ではなく、大人であり、夜が似合いそうな独特な雰囲気をもつあの女性と、どんな知り合いかなんて…

もしかして班乃は……


嫌な考えに行きかけた思考を、頭を振って書き消した。そんな筈はない。班乃にかぎって。

さっきのはただの人違いで
班乃が忘れ物したのだってただの偶然。

そう結論付け、安積は自宅へと続くホームへと足を向けた。


その頃…


植野の首を突如容赦なく人一人分の体重が襲った。


「っ!!」

「こら紗千!」


それを見た鈴橋は慌て紗千、妹を植野から引き剥がした。


「やーっ!」

「やーじゃない!植野を殺す気か!」

「あらあら、うふふ」


植野達は映画鑑賞を終えたあと、今度は鈴橋の自宅へと来ていた。

仕事の都合上、一人で夕食を取る植野を、鈴橋は自宅に呼んだのだ。


お昼ご飯を貰った上に夕食まで…と遠慮したのだが、そんな事気にするな、きっと母さんも喜ぶ、と鈴橋に言われたら断る理由はない。なぜ自分が行くと学母が喜ぶのかは分からないが。

そんなこんなで、今は鈴橋の自宅に居るわけだ。

そしてこの状況。

何度か保育園の手伝いをしていたので、鈴橋家の人々とは面識もあったし、元々人当たりの良い植野は紗千に物凄くなつかれていた。

紗千にしてみれば、後ろから抱きついただけなのだが、それがソファーの上から、立っていて油断しきってる植野の、さらに背後から飛び付いたのだから話は別だ。

見事に首を閉められた形となった植野は数回むせ込んだ。


「悪い、大丈夫か?」

「っん、大丈夫大丈夫」
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