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- 8章 -
- 休日 -
しおりを挟む「…あっきー?」
見上げた班乃の顔は、今まで見たことないくらいの “ 無 ” だった。
いつも穏やかに笑い、常に微笑みをたたえている様な彼からは想像もつかないくらいの無表情に微かな恐怖を覚える。
「ねっ、ねぇ、明?どうした?」
その変わりように戸惑いながらも遠慮がちに班乃の袖へと手を伸ばしたが、班乃が一歩踏み出した為に空を切るに終わった。
そんな班乃の顔には先程の表情は見間違いだったと錯覚させるような、困ったような笑みが浮かべられている。
「えっと、すいません。人違いではないでしょうか?失礼ですが、僕は貴女とは面識はないかと…」
「なに言って…」
訝しげな、それでいて若干不満そうな顔をした女性は、班乃の隣に居る安積に気がつくと言葉途中で口をつぐんだ。
数秒、女性と安積は見つめ会う形になる。
「え?ぁ、あの…?」
なにがなんだか分からない。
一連の流れの中で置いてけぼり気味だった安積は、突然自分に向けられた意識に戸惑うしかなく首をかしげた。
沈黙。
安積を見たまま言葉を発しなかった女性は、ため息をつくと、軽く笑って見せる。
「ゴメンなさい。貴方の言う通り人違いだったみたい。知人は貴方見たいににこやかに笑う人じゃないもの。迷惑かけたわね」
「…いえ、お気になさらず。人違いする事は誰にだってありますし。さぁ安積、行きましょう?」
「あっ、うん…」
その会話を最後に、女性は安積たちの歩いてきた方へ、安積たちは女性の歩いてきた方へ、すれ違うようにして別れた。
しかし釈然としない。今の会話を聞くだけならば、ただの人違いという話なのだろうが…
だが、それだけではないような、2人の間にはなにかあるような…そんな感覚が安積を襲う。それがなんなのか明確には分からないのだが…。
あれから言葉を発しない班乃を横目で見る。表情がない訳ではないが…今まで見たことない顔を見たせいだろうか。隣に居る班乃がまるで知らない人の様に感じた。
お互い会話がないまま駅に着いたが、このまま別れるの気まずい。安積が口を開こうとしたそのタイミングで班乃が口を開いた。
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